君は私のことをよくわかっているね
「違うの? 私は桜華を愛している。桜華も同じだろう? 生涯私だけを愛し、私の側にいると――そう言っていたじゃないか」

「龍晴様、わたくしは……」


 はい、と答えてその場をやり過ごせばいい。頭のどこかでそれが一番だってわかっている。

 だけどわたくしは――わたくしの心が、ハッキリとそれを拒んでいた。


 その瞬間、懐に入れていた天龍様の龍鱗がまばゆい光を放ちはじめる。


「なっ⁉」


 龍晴様の目がくらんだその瞬間、わたくしは彼の隣をすり抜け、勢いよく駆け出した。
 宮殿を覆い尽くすほどの美しく強い光。誰もが目をつぶり、顔を伏せるなか、わたくしは必死に走る。


「桜華! 桜華!」


 背後から龍晴様の声が聞こえてきた。彼は他の人よりも光の影響が少ないらしい。


(……早く! 早く! 天龍様のところに行かなくちゃ!)


 天龍様は今、わたくしの状況を把握してくれているのだろうか? 彼が地界に降りるまでどのくらい時間がかかるかはわからない。けれど、少なくともここにいたらまずい。なんとかして逃げなければ。

 宮殿を出て、後宮のなかをひた走る。けれど、その広大さゆえ、簡単に身を隠すことができない。


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