君は私のことをよくわかっているね
「わかりません」

「……え?」

「わたくしにはあなたが――龍晴様のことがわかりません」


 涙がわたくしの頬を濡らす。
 本当はもっと早くに、そう伝えるべきだった。今更かもしれない。だけど、ようやく伝えることができた。

 胸が苦しい。龍晴様は傷ついたような表情で、わたくしの顔を覗き込んだ。


「わからない? そんな、まさか」

「まさか、ではございません。わたくしには龍晴様のことがわかりません。龍晴様も、わたくしのことをわかっていらっしゃいません。いいえ――今になってようやく、わたくしは龍晴様の心がわかるようになってきました。けれど、わたくしはもう、あなたの願いを、わたくしへの想いを、わかりたくないんです」


 龍晴様が望んでいること。それをわかってしまったら、わたくしは本当のわたくしを殺すことになる。

 嫌なのだ。
 これ以上、彼の思いどおりに生きたくはない。それがこの世の理でも、わたくしは受け入れたくなかった。


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