君は私のことをよくわかっているね
「あの……龍晴様」

「うん、なんだい?」

「その――――わたくしでは、ダメでしょうか?」


 それは魅音様が入内した2年前から、ずっと言えずに飲み込んでいた言葉。
 心臓がバクバクとうるさく鳴る。怖くて顔が上げられない。

 龍晴様はしばらくの間、なにも言わずに黙っていらっしゃった。数秒がまるで永遠のように感じられる。

 沈黙に耐えかねて口を開こうとしたとき、龍晴様の指先がわたくしの顎をそっと掬った。


「わたくしでは? ……それは一体どういう意味だい?」


 どこか扇情的な眼差し。わたくしは頬を染めつつ、そっと視線だけを横向けた。


「ですから……わたくしを、龍晴様のお手つきにしてはいただけませんか? わたくしは龍晴様をお慕いしているのです」


 女のわたくしから、こんなことを尋ねるなんてはしたない。とても恥ずかしいことだってわかっている。

 けれど、想いは言葉にしなければ伝わらない。

 じれったい。苦しい。
 龍晴様はなにも言わない。
 泣くまいと心に決めていたのに――瞳に涙がにじんだ。


< 7 / 76 >

この作品をシェア

pagetop