君は私のことをよくわかっているね
(あんなにも好きで好きでたまらなかったのに)


 ――今の彼の姿は、なんとも惨めで哀れだった。

 わたくしは首を横に振り、龍晴様から距離をとる。その瞬間、彼は絶望に表情を歪めた。


「龍晴様、わたくしにはわかりません」

「そんな……! 嫌だ、待って! 待ってくれ、母様!」


 静寂。龍晴様が大きく息をのむ。
 それはきっと、あまりにも無意識に発せられたひと言だったのだろう。龍晴様はわたくしを『母』と呼んだあと、しばらくの間呆然としていた。それから、ご自分とわたくしとを何度も交互に見遣り、瞳いっぱいに涙をためる。


「さようなら、龍晴様」


 わたくしはニコリと微笑むと、天龍様を抱きしめる。
 それから、涙を流してわたくしたちを見つめる龍晴様を残し、二人で空へと舞い上がった。



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