あの日の出会いを、僕はまだ覚えている
「ねえ、君って中学生?」

「うん、中学一年。君は?」

「あ、わたしも中一。一緒だね」

「うん、一緒だ。俺最近引っ越してきたんだ。来週から緑ヶ丘中に通う」

「そうなんだ」

だから見ない顔だったんだ。
緑ヶ丘中はわたしも通う予定だったところ。

「君も……、えっと、名前なんだっけ?」

「あ、神田魚月(かんだなつき)

「俺は天早海生(あまはやかいせい)

今さらながら自己紹介をすると何だか照れくさい気持ちになる。
急に話題がなくなってしまったような気がして、わたしは「魚月のナは魚って書くんだよね」と漢字まで紹介しちゃったりして。
すると海生くんはケラケラと笑い出した。

「魚になりたいって、もう魚になってんじゃん」

「ちがーう、そういうことじゃなくて。海生くんこそ海に生きる男じゃん」

「釣り人っぽくていいだろ?」

ニカッと笑った顔は爽やかで、まだ春なのに少し日に焼けている。
見ているとなんだか元気が出るような、そんな笑顔。

「わたしも本当なら緑ヶ丘中だったんだけど……。来週引っ越すんだ」

「えっ、そうなの?」

「うん。お父さんの単身赴任先についていくことになったの」

お父さんは半年前から単身赴任をしていて、わたしたち家族はわたしの小学校卒業を待ってからお父さんのところに合流することになっている。

わたしは海を見る。
ずっと近くにあった海。
生活の一部だった海。

引っ越し先はここからずっと遠く。
そして海からはずいぶん遠いらしい。

友達と離ればなれになるのも寂しいけれど、気軽に海を見ることができなくなるのも寂しい。

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