あの日の出会いを、僕はまだ覚えている
あの日の出会いを、僕はまだ覚えている
◇

ゆらゆらと泳ぐ魚が好き。
水の中を自由自在。

閉館間際の水族館で、私はぼーっと水槽を眺めていた。目の前の水槽では鰯の群れがぐるぐると回っている。

子供の頃から水が好きで、将来の夢は【魚になること】だった私。魚にはなれなかったけれど、今は私立中学で体育教師をしながら水泳部の顧問をしている。

地元のローカルな水族館の年パスを使って、よくこうして水族館に足を運んでいる。

――魚になったらどこへでも好きなところに行けるのに

というのは子供の頃の私の持論。
魚になれなくても、大人になったらある程度好きなところへ行けるようになった。

｢でも違うんだよなぁ｣

目の前を優雅に泳ぐ魚を見ながら私は呟く。
館内はもう人がほとんどいなくなり、物寂しさを覚えてきた。

手を繋いだ初々しいカップルが｢楽しかったね｣と言いながら通り過ぎていく。

それを見たらなおさら物寂しくなった。
神田魚月(かんだなつき)二十六歳、ただいま彼氏なし。お一人様満喫中。

もうかれこれ三年ほどひとりぼっちだ。合コンや街コンにも積極的に参加しているけどなかなか上手くいかない。ん、まあ、そんなにガツガツと彼氏ほしいって思っているわけではないけれど、でもやっぱり結婚適齢期は逃したくないわけで。それなりに活動中なのだけど。

｢運命の神様っていないのかなぁ｣

私はひとりごちた。
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