あの日の出会いを、僕はまだ覚えている
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小学校卒業のタイミングで、私は父親の単身赴任先へ引っ越すことになった。
海の町で育った私は水のある生活が大好きだった。海を眺めたり市民プールで泳いだり水族館へ入り浸ったり。
引っ越すことでそんな生活が変わってしまうのが怖かった。
引っ越す前に私はいつも訪れている海を眺めに行った。
本当に気紛れで、この海と町を忘れたくなかったのと、魚になったら自由に泳いで好きなところへ行けるのにという気持ちでただぼーっと海を覗き込んでいた。
そこで偶然に出会ったのが、釣りをしていた天早海生くんという男の子だった。彼は私と逆で、引っ越してきたばかりの子だった。
似たような境遇の私たちはその日夕方まで一緒に過ごした。何を話したかなんて今となってはもうほとんど覚えていない。
だけどひとつだけ、印象に残っていることがある。
私が「魚になりたい」と言ったら、「何かいいな、そういうの」と言って笑ってくれた。
それがすごく嬉しかった。
『ね、もし魚になったら、一番に海生くんに会いに行くね』
『じゃあ俺が魚月ちゃんを釣り上げるよ』
そんな約束とも取れない言葉は今も鮮明に思い出せる。それくらい私にとって印象深い出来事だった。
それが理由で……とは言いすぎだけど、こっちにある大学に進学して、そのまま就職もした。
もしかしたらいつかまた海生くんに会えるんじゃないか、なんて淡い期待を無意識にしていたのだろうか。