呪われた悪霊王女は、男として隣国の人質となる~ばれたくないのに、男色王子に気に入られてしまって……?~

33話 秘策は、耳飾り。

「どうするんですか、こんな敵陣に乗り込んできて。もしかして、他に兵士を連れてきてくれたんですか」
「はは。ごめん、君が殺されかけてるっていうから、身一つで来ちゃったよ」
つまり、援軍は望めないらしい。
さっきは不意打ちだったから、隊が乱れてリナルドはここまでやってこられたのだろう。今はしっかりと周りを固められてしまっているから、そうはいかない。
「お喋りはそこまでだ。知られてしまったなら、二人まとめてここで葬る! 炎属性の隊員は攻撃開始。精霊師団は、後方で回復の用意をしろ!」
その矢先、フラヴィオの命により、これまで木陰に隠れていた彼の手先が一斉に出てくる。全方向からベッティーナ、リナルドは狙われるが、
「君たち!!」
より固まった精霊たちの作り出す光の防御壁により、寸前で防がれていた。
炎の矢が襲いくるのだけど、その魔力の勢いが殺されて、真下にぼてぼてと落ちていく。
「どうだい、やれるもんだろ?」
「……でもこれじゃあ、ここからどうしようもないのでは」
「相変わらず手厳しいな。うん、その通り。相手には赤と緑の魔法使いも、回復士もいる。スピードも、パワーも人数も部が悪すぎるね。そこで君の力を借りたいんだけど、どうかな」
「私はもう魔力がほとんどありません」
「それ、なにかあるんだろ? 使ってみたら?」
リナルドがそう言って指差すのは、自分の耳元だ。彼のつけているイヤリングが、軽く揺すられる。
「そんなことまで知ってるのですか」
「いいや。でも君はそれを触る癖があるからね。こんな時にも触るんだから、なにかあるんだろ?」
まさかそんなことまで知られているとは思わなかった。
鋭い洞察力というか、ストーカー力というべきか。ベッティーナは驚くと同時に少し寒気を覚えて、声が低くなる。
「……この悪魔は危険なんです。私の魔力では制御しきれないかもしれません。失敗したら、あなたも私も死にます」
「なるほど、そういう理由で躊躇してたのか。なら、もう心配ないね」
「……意味がわかりませんが」
「僕が手伝えばいい。常にヒールをかけることで、君の魔力が尽きないように補填する。これなら、抑え込めるんじゃないかな」
その提案は、考えもしないことだった。だがたしかに、可能性はある。
普通、真逆の特性を持つ白と黒の魔力は打ち消しあってしまう。
だがヒール魔法がベッティーナの身体へかけられれば、回復したベッティーナは黒の魔力を生み出せる。
「……要するに、魔力を変換できる?」
「うん、そういうこと。だから力を合わせようか、ベティ」
協力を求められ、ベッティーナは再考する。
うまくいく保証がされたわけじゃない。結果、リナルドを巻き込むことになるかもしれない。
冷静に考えれば、ほんの少しだけ希望が見えたにすぎない。
けれど、からくりは分からないのに、理屈もないのに、ベッティーナの中には光が一つ一つ明明と灯っていた。
それはかつてベッティーナを照らしていた星の光、ジュリアに重なる……ような気もする。
自分でもおかしくなったのでは、と思うのだが、なぜかしてしまうのだ。
ついさっき暗闇に戻れたことに安堵していたばかりだったが、あれは強がりだったと自覚する。
さんざんつけ回された結果、ベッティーナはいつの間にか彼の放つ光に慣れていたようだ。今この状況に置いてはもう、求めざるをえなくなっていた。
ベッティーナは、こくりと一つ頷く。
「うん、じゃあ行こうか。そういえば、ここまではっきり協力するのは初めてだね」
「……いいから、やりますよ。合図したら、この防御壁を解いてください」
三拍子数え、リナルドとタイミングを合わせる。
精霊による光のベールが解けたと同時、ベッティーナは耳飾りに魔力を加えた。
あれだけ躊躇していたのが嘘のように、すんなりと触れて魔力を加えていた。
瞬間ぞわり、身の毛がよだつ。
『引き裂くな、許さない、返せ、戻せ……』
そうして出てきた異形の悪魔こそ、ジュリアだ。
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