恋愛体質
「本当はもう少し後でもよかったんだけど。」

 前置きして課長は話し出した。
 私は身じろぎもせず静かにゴクリと唾を飲み込んだ。

「私が明日からしばらく留守になるからね。ほかから聞こえるのはまずいから今朝と思ったんだけれどバタバタしてたから。すみません。」

 何か説諭されるという感じでもなさそうだ。多少安堵した。大きく一度深呼吸をして話を待った。

「高橋さん、1月から異動です。異動といっても支店内異動。ジョブローテーションね。販促課。」

 私はびっくりして課長の顔をまじまじと見た。

「販促?ですか?」

 びっくりして聞き直した。

「営業ね。不安ですか?」

 課長はニコニコとした笑顔で私に聞いた。

「はい。あ、いえ・・・あ、はい。」

 私は素直に認めた。

 (ああ、さっきの木村君のはこれだったのか。)

「始めはね、誰でも不安ですよ。まあでも新入社員に戻ったつもりで。販促課の課長も優しいし。ああそうか。彼も異動でしたね。
 とりあえず今月いっぱいはまだこちらで頑張っていただきますよ。繁忙期ですからね。
 それでも引き継ぎとかありますから販促課の方とスケジュールを確認しながらやりましょう。」

 私はただ

「はい。」

 としか言えなかった。
< 17 / 113 >

この作品をシェア

pagetop