恋愛体質
 私はその場に居合わせたけれどそこに私の意思など介在するはずもなかった。

 今のところ先輩の佐藤さんもただ呼ばれて同席しているというだけだ。

 それでも恐ろしくなってきた。話の流れからいくと数日中、下手したら明日から営業と一緒に顧客訪問ということになりかねない。

 そしておそらくそれはここにいる佐藤さんにかかわるのだろう。
 落ち着かなくなってきた。

「了解。じゃあ悪いけど高橋さんのスケジュールを佐藤と詰めてもらえますか。」

 矢崎課長が荒川さんに言った。

「はい。わかりました。」

 荒川さんが答えた。

「僕も来月には異動だから心苦しいんだけど、新しい人が来る前のほうがいいでしょ。僕もそのほうが安心だし。着任したばかりの人じゃその人も大変だろうから。」

 課長は私の方を見て言った。

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 私はおどおどしながら課長に言った。
 先輩の佐藤さんがにこりともしないで私を一瞬じっと見た。怖かった。

 その目は紛れもなく厄介者を押し付けられてとんだ災難だと語っている目だった。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」

 矢崎課長が私に言った。

「佐藤は無愛想だけど面倒見がいいから。頼りになる先輩だから。な。佐藤。」

 課長は佐藤さんに笑顔でプレッシャーをかけているようだった。

「はい。」

 佐藤さんは無理矢理言わされたというように、本当に無愛想に答えた。
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