恋愛体質
「保坂さんには俺から話しておくから出る前に声だけかけていって。」

「はい。わかりました。」

 保坂さんというのは私達のグループリーダーのことだ。

 私よりも何年も先輩のベテランの女性社員で仕事上のいわゆる「ホウレンソウ」はすべて保坂さんにすることが正式ルートとなっていた。

 保坂さんみたいな手配のエキスパートを差し置いて自分が営業に同行するなんておこがましいことこの上ない気がした。

 手配の問い合わせだって少しでもイレギュラー案件になれば私はいちいち確認して時間がかかるばかり。

 リーダーはもちろん、他の先輩社員のように何もかもスムーズに答えられるというレベルには達していなかった。

 私はデスクから筆記用具と名刺を出してバッグを持ってから保坂さんのところに報告に行った。

「あの、じゃあ今から佐藤さんとWTCに行ってきます。」

「はい。荒川さんから聞いた。いってらっしゃい。」

 保坂さんはほとんど何の感情も見せることなく言った。周りのスタッフ達は何だろうという顔をしながら電話を取っていた。
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