恋愛体質
　長身の佐藤さんは歩くのも早くて私は遅れまいと必死でついていった。

　晴れているが空気がキーンとして寒い日だった。にも関わらず急ぎ足の私は電車に乗る頃にはかすかに汗ばんでいた。

　車内で佐藤さんは今日のスケジュールをざっと私に話して聞かせた。

　渋谷で１店舗、新宿で２店舗、池袋で２店舗。行けたら戻りながら東京で１店舗回るつもりだということだった。

「今から行くところは忙しいんで担当者とゆっくり話したりって余裕はないかもしれない。キーマンは吉田さんて男性。一応紹介するから覚えておいて。」

　そんな佐藤さんの言葉を聞くにつれどんどん緊張してきた。

　でも実際顧客訪問をしてみると 初対面の私なんかに相手も何を期待しているわけでもないんだとわかって気が抜けた。というより緊張が解けた。

　佐藤さんだって接客の邪魔にならないように控えめに担当者と言葉を交わし、私はその邪魔をしないように側に控えていた。

　新宿の２店舗を回り終わってから昼食を取ることにした。

「何が食べたい？食べられないもんとかある？」

「いえ。なんでも食べられます。」

「蕎麦屋でもいい？」

「はい。いいです。」

　私は佐藤さんのあとについて間口の狭い雑居ビルの１階にある蕎麦屋に入っていった。
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