恋愛体質
「誰?」

 彼は黙って流しへいってコップに水を汲んで飲んだ。

「誰なの?」

「関係ねえよ。」

「関係なくない。」

「お前には関係ないの。」

 私は傷ついた目で彼を見上げた。

「いいじゃん。別に。元カノだよ。」

 そう聞いたところで安心するものではない。私はそのまま固まっていた。

「僕、元カノを忘れることはないと思うよ。」

 彼は静かな声で言った。

「別れたんだよね?」

 私はみじめったらしい声で聞いた。

「うん。」

 それ以上何も言えなかった。

 私は黙って服を着てバッグを掴んで玄関に行った。

「帰る。」

「ん。」

「じゃあね。」

 靴を履き終わって振り返った私を、彼は感情の抜け落ちた全く無表情な顔で、完璧に整った冷たい顔で見ていた。

「送ってもくれないの?」

「帰れるだろ?まだ電車あるよ。」

 私は玄関に向き直り黙って彼の部屋を出た。
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