恋愛体質
「うわぁ!」

ちょっと顔の向きを変えたらすぐ脇に成沢の顔があってびっくりしてのけ反りそうになった。

エスカレーターの後ろから成沢が私の顔を覗き込むようにしていた。必要以上に近すぎる。

「驚かさないでよ。びっくりするじゃない。」

私は抗議して言った。

「どうしたの?急に黙って。」

成沢は楽しんでいるみたいに耳元で囁くように言った。

体の敏感な部分をそぅっと撫でられているみたいに、一瞬ぞわっと皮膚が浮き上がるようなざわつきがした。

一歩間違えば嫌悪感のようだがそうではなく緊張が走った。成沢に会って以来初めて自分の中の女が動物的に反応した気がした。

成沢が私を観察しているのがわかる。

「見ないでよ。」

私は小さな声で言った。

「なんで?いいじゃん。」

面白そうにささやきながら視線を外すといきなり私の腕を掴んでエスカレーターの右側に出て登り始めた。

「ちょっと・・・」

私は抗議しかけたが成沢はしっかりと腕を掴んでホームの人波をぬって列の後ろに私を並ばせた。

「この辺がちょうどいいんだよ。」

成沢は私の隣に並んで言った。
電車がホームに入ってきた。ドアが開いても降車する人はいない。成沢がまた私の手を取って車両の奥の方に入っていった。

いつもよりちょっと時間が早いだけだが車内は混んでいた。身動きが出来ないほどではないが車内を移動するのは難しいという混雑のレベル。

「いつもの方が空いてるよ。」

私は恨みがましく愚痴ってみた。
< 70 / 113 >

この作品をシェア

pagetop