恋愛体質
成沢はそんな私の当てつけなど全く意に介することなく涼しい顔ですましていた。

本当に涼しい顔。

こんなふうに笑わないでいるとちょっと近寄りがたい感じがする整った顔。

切れ長の目はクールでいて、どこか触れられないような脆さを隠しているような気がする。

見方によっては涼しげというよりふと寂しげにも見えなくない表情。

警戒とかガードしているのか打ち解けない感じがするのに・・・

笑うとガラリと印象が変わる。ギャップは武器だ。ずるい。反則だ。

そんなふうにさりげなく観察しているとますます自分のすぐ脇にいるこの男が見ず知らずの赤の他人だという気がしてきた。

実際知り合ったばかりでお互いのことなどほとんど知らない。

「何見てんの?」

「別に。」

私は慌てて成沢の顔から目を逸らしながら言った。さりげなく観察していたつもりが引き込まれるように見つめていたらしい。

成沢は私の顔を医者が患者を観察するみたいに一通り眺めてから異常無しとでも言うように無表情で正面に向き直った。

成沢のスマホのバイブの振動が伝わってきた。彼は窮屈な中でも器用に携帯を取り出してチェックしていた。

その間私は混んだ車両内をなるべく顔は動かさずにさりげないふうに、目だけでキョロキョロと見回した。

もちろんのど飴のプリンスを探していたのだ。
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