恋愛体質
(いない・・・な)

一通り眺めた限りではプリンスを見つけることはできなかった。

(いるわけないか)

あの日はもっと遅い時間だったし乗っていた場所も違ったと思う。それにプリンスはあの日だけたまたまあの電車に乗っていたのかもしれないのだ。

諦めて視線を元に戻した。成沢は下を向いて携帯をいじっていた。

「何キョロキョロしてんの?誰か探してんの?」

「キョロキョロなんかしてないよ。別に。」

油断ならないヤツだ。下を向いて熱心に携帯をいじっているのかと思っていたらきっちり観察されていた。

「なんか悩みとかなさそうだな。お前。」

小ばかにしたように言う。

「そっちこそ悩み事なんて」

言いかけて口をつぐんだ。顔を上げた成沢を見たらなぜかそれ以上言い返すのをためらわれた。

その表情はいつになく固く排他的で軽口を叩くのを躊躇させるような何かがあった。

「なんだよ?急に黙って。」

「なんでもない。」

電車がまた駅に停車して更に車内が混んできた。私は手摺りの脇に立っていて成沢が私と他の乗客を隔てる壁のようになっていた。

もしかしたらわざと壁のようになってくれたのかもしれなかった。でも距離が近すぎて気まずい気もした。
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