恋愛体質
ちらりと顔を上げると何事か考えているような難しげな表情を浮かべた整った横顔が見えた。

(悔しいけどかっこいい)

自分の顔のすぐ近くにある成沢の腕を意識した。ほんの一瞬、抱きしめられたらどんな気分だろうと考えてしまった。

(何妄想してんだろ、私)

自分の想像が恥ずかしくて思わず俯いた。勘のいい成沢にはすべて見透かされそうな気がした。

また電車が次の駅に停車して車内は更に混んできた。今度は思い過ごしでもなく本当に成沢が壁になってくれた。

目の前に成沢が立って私は成沢の腕の中にいるような姿勢になった。

意識し過ぎてどきどきする。それでまた意識してしまう。こんなに近くにいたらどきどきしているのがばれてしまう。

そんなことばかりに気を取られていて私はつい無口になっていた。

成沢も先ほどから話しかけて来ない。でもそれは私のように緊張しているからという感じではなかった。

よくはわからないが、自分の世界に入ってしまって私の存在自体を忘れているような感じだった。

『えー間もなく東京、東京。終点です。どなたさまもお忘れ物の無いようご注意ください。』

列車の単調な走行音に乗って眠気を誘うような車内アナウンスが間もなく終点に着くことを告げていた。
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