恋愛体質
「ふぅ。」

店を出ると佐藤さんは大きく1つ息をはいて腕をかざして時計を見た。

「さ、次行くよ。」

そう言って歩きだした。
私は何か言いたかったが何も言えないまま黙ってついていった。

情けなかった。自分がふがいなくて佐藤さんに申し訳ない気がした。コンタクトセンターの先輩なら鶴田さんに突っ込まれることなくスムーズに答えられたかもしれなかった。

私のせいで佐藤さんまで見くびられたも同然だ。

「あ、電話しなきゃ。」

佐藤さんは立ち止まり携帯を取り出して電話をかけた。

「お疲れ様です。販促の佐藤です。ちょっと確認したいことがあるんですけどいいですか?」

脇で聞いているとどうやらさっき私が答えられなかったことを企画に確認しているようだった。

「ええ、はい。はい。はい。わかりました。いや、問い合わせだけです。はい。ええ、はい。わかりました。ありがとうございました。」

電話を切ると私を見て言った。

「出来るって。」

言いながらすぐに電話をかけている。

「佐藤です。先ほどは。今よろしいですか?さっきの件なんですが。」

私はただ佐藤さんの脇でぼーっと突っ立って電話を聞いていた。

「はい。よろしくお願いします。じゃあ失礼します。」

佐藤さんは電話を切って歩き始めた。

「行こう。」

佐藤さんは私に言った。いつもと何一つ変わらない調子で。

「佐藤さん。」

「どうした?」

「ありがとうございました。」

私はやっとそれだけ言えただけだった。

「うん。さ、行くよ。」

歩きだした佐藤さんの後を私もおくれまいと歩きだした。
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