神様の寵愛は楽ではない

2-2、

 飛び立とうとしては落ち、また枝を伝いのぼり、大空めざして飛んでは墜落することを、何度も何度も繰り返す。
 彼らは飛べない美奈をバカにした。

 美奈はふわりと浮かび、優雅に舞う自分の姿を思い描いた。
 必死で曲がった羽をばたつかせる。
 蝶は、蝶として生まれたときには飛べるようにできているはずだった。
 己の動かない羽に絶望した。
 もう、仲間のすがたは見当たらない。
 彼らは恋のダンスを踊っていた。
 踊れない美奈は見捨てられたのだった。
 そのとき、鎌を怪我したカマキリが美奈ににじり寄り、美奈がむなしく羽ばたかせて生じさせる風圧を避けながら、おそるおそる声をかける。

 「腹がへって死にそうだ。お前なら、この使えない鎌でも捕まえられそうだ。……食ってもいいか?」

 美奈は答えた。

 「こんな飛べないわたしでも誰かの血肉になれるのならば生れた甲斐があるというもの。食らいたいのなら食らうがいい」

 カマキリは美奈に食いついた。
 こんなに上手くて大きな獲物は初めてだった。
 食いちぎられた羽が落ちるとき、きらきらと銀に桜色にきらめく鱗粉が舞い散った。
 カマキリは顎をまあるく動かし、むさぼり食いながらも、その美しさに目を見張る。

 「わが身を差し出したお前はなんて美しく愛おしく、そしておいしいのだろう」


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