神様の寵愛は楽ではない
すぐに引き下がらない。
断ったのにもう座っている。
ため息をつきたいのを我慢した。新学期一日目から不快な思いをしたくないのだけれど、問題はいつも向こう側からわたしを狙ってくる。
顔をあげ、ずり落ちそうになる眼鏡越しに調子の良い男子学生の顔を確認する。元気な女の子に見てほしいアピールのジェンダーレス男子である。
これまでの人生、周りの男からも女からもかわいがられてきたんだろう。
そうでなければ、断っているのにずうずうしく勝手に座ったりしない。
「わかりません。ごめんなさい。すみません」
自信過剰な男子学生は目に見えてがっかりする。
「ったく。清涼飲料水のコマーシャルに出てるんだよ?名前はわからなくても見覚えあるでしょ」
みるみる不機嫌になった一年生の機嫌をとる必要もない。
わたしは席を移ろうかと思ったが、もともとわたしの席なのでやめた。
「テレビあんまり見ないんです。ごめんなさい」
「あんたって、国文学部でしょ?絶対に芸能教育学部じゃないでしょ?芸教は僕たちのような芸能関係者とその卵たちだからさ。あんたは国文、考古学コースとかでしょ!?」
わたしはまさしく考古学コースだ。
顔面のかわいらしさに自信のある俳優コース一年生は、さも面白いこと言ったかのように笑う。