神様の寵愛は楽ではない
第1夜 むかあし、昔

1、

 むかあし、昔。

 魑魅魍魎、怨霊、あやかし等が闇夜に跋扈する時代でありました。
 時折人里や都に訪れては人を浚い、食らい、悪さをするという悪鬼の気配におびえながら、人々は生活しておりました。そうであるとはいえ大半は、不可思議に遭遇することもなく、それゆえに些細なできごとをさもたいそうな人生の一大事のように大げさに騒ぎ立てて自慢して、そうやって平凡な一生を終えていたのです。

 そんな昔のことでした。
 小さな村に赤子が生まれました。
 その子は生れたときより、玉のような肌で、産声もとても可愛らしいものでした。

 父も母もたいそう喜び、その子を美奈と名付けました。
 美奈は、誰もを惹き付ける美しさ愛らしさを赤子の時から備えていたのです。

 娘は大人たちが想像した通り、年々その美しさと利発さを増していきました。
 5才になる頃には、その小さな村からだけでなく、他の村からも彼女をひと目見ようと、毎日、山を越え川を渡り、多くの男たちが押し掛けました。

 それ故、美奈は自分は特別である、神に特別に愛された娘であると思うようになりました。
 日に日に高飛車で傲慢になっていきました。
 それでもその美しさから、美奈は周囲の者たちに大層愛されました。
 美奈は貧しい農家の家から、その将来を見越した豪商の養女に引き取られ、蝶よ花よと贅沢三昧、わがまましほうだいに育てられます。
 別れを惜しむ貧しい両親兄弟から離れても、ひとかけらも悲しさはありませんでした。

 そのたぐいまれな美貌の娘の噂は時の帝まで届いておりました。
 美奈が16になったとき、とうとう帝へお輿入れが決まりました。
 娘の美しさは帝の心をおおいに狂わせたのです……。


< 2 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop