神様の寵愛は楽ではない
「……傲慢なお前にふむ、なにか呪いをかけようか?その悶え苦しむさまを見てみたい。素直にわたしに愛されれば良かったものを」
あらんかぎりの力を使って眼を閉じた。
それでもまな裏に指先の残像が回っている。叫ぼうとしたが、舌は口蓋に張り付き、声がでない。
がくがくと震える。
「夜闇が溶け込んだかのような、ぬばたまの黒髪は、」
艶のある自慢の黒髪が燃え上がり、ちりちりと醜く縮れ上がった。
男は片眉をあげた。
燃えるさまが男を楽しませる。
「その軽やかで、伸びやかな脚はどうしようか」
膝があらぬ方向に曲がって美奈は崩れおちた。
「愛を誘うような指先、内側から発光しているかのような柔肌、耳に心地よい琴の音のような声、水盤に映された幾千の星を凝縮させたかのような瞳、若さ……」
男が美奈の美貌をひとつひとつあげていく。
顔にふれればその触感のありえないざらつきに、手を確かめた。
指は節ばりこわばり、縮緬のしわが千も寄り、茶色く干からびていた。
昔語りに語られる山姥のような手だった。そして顔も。
振り返って、帝から贈られた銅を磨いた鏡で己の姿を確かめる勇気はない。
美奈は身体が作り替えられていく恐怖に絶叫する。
男は職人が自作の器をあれこれ試すように、思案げに、そして楽しげに、美奈の全てを剥がしていく。