いつも側にいてくれたね
「なぁ、夏芽。俺ってそんなに信用ないか? 直生には話せて俺には話せないって。そんなの俺じゃなくて直生の方が好きだって言ってるようなもんだろ、違うか?」
「ちがっ、違う! そうじゃないの。遥生に余計な心配掛けたくないだけ。だってさ、本当のこと言ったら遥生怒るもん」
「もう怒ってるから、話してよ夏芽。話してくれないんだったらさっさと直生のところへ行けよ」
「なんでそうなるのよ。直生のところへは行かない」
「俺は夏芽の心配しちゃだめなのかよ。夏芽の彼氏は俺じゃないのかよ」
「私の彼氏で、私が大好きなのは遥生だよ。それなのにどうして喧嘩腰になっちゃうの」
「夏芽、何も話してくれないのか? だったらいいよ。もう無理には聞かない」
そう言って遥生は頬を膨らませて怖くない顔で私を睨んでいる。
遥生が心配してくれていることは痛いほど分かるの。
遥生は私を大切にしてくれているって分かってるの。
「遥生、ごめんなさい。そんなに拗ねないで。昨日のこと話すから」
私は泣きたいのを堪えて遥生に昨日のことを話し始めた。
「昨日ね、私のクラスは函館山に行ったの。そこで私、スリに遭って。私のカバンを引っ張り合ってたら引きずられちゃって。それで怪我したの。それだけだよ」
遥生は私の話を聞いて顔色を変えた。
「え? 夏芽、それ本当なのかよ」
「うん。でも何も取られなかったし、ケガももう大丈夫だよ。昨日はそんなことがいろいろ重なっちゃって遥生に連絡できなかったの。本当にごめんね」
「そんなに大変だったのか、夏芽。本当にもう大丈夫?」
「大丈夫だよ。直生がちゃんと消毒してくれて、傷の手当てしてくれたの」
「そっか。それは怖かったな、夏芽。さっきは怒ってごめん」
「ううん、遥生は私のことを心配してくれて怒ったの分かってるから」
「本当にごめんな」
遥生は謝りながら私を引き寄せてギュッと抱きしめてくれた。