いつも側にいてくれたね
今日から私たちは高校生。
中学生の時のように仲良しではいられなくなるのかな。
こうして毎朝一緒に学校へ行くことも無くなってしまうのかな。
そんなことを考えながら高校までの道を直生と並んで歩いた。
学校へ到着すると昇降口にクラス表が貼り出されていて、何人もの新入生が自分のクラスと友達のクラスを確認し合っている。
「わ、早く来たのにもうあんなにたくさんいるー! 直生、私たち同じクラスかな。別々だったら淋しいな」
「じゃ、僕が見てくるから夏芽はここで待っててよ」
「うん、ありがとう」
そう言って直生はクラス表を見に行ってくれた。
直生を待っている時、後ろから誰かに肩を叩かれたから振り向くと、
「ね、今あっちに行った人ってあなたの彼氏?」
そんな質問をしてきたのは、見たことのない女の子。
胸にお花を付けているから私と同じ新入生。
「えっ? 直生のこと?」
「あの子、直生くんって言うんだ。あなたと仲良さそうにしてたよね」
「直生は彼氏じゃないよ。同じ中学校だったの」
「ふーん、そうなんだ。名字は何? 教えて」
「えっと、高田夏芽です」
「は? あなたのことじゃなくてさ、直生くんの名字が知りたいの」
やだ、私ったら何を勘違いしちゃったの。もう、恥ずかしい。
「ご、ごめんなさい。直生は湯川です。湯川直生」
「そう。ありがとう。直生くんってかっこいいね。ね、直生くんってまたここに戻って来る?」
「うん、多分。今、クラスを見に行ってくれたから」
「じゃさ、私に紹介してくれない? あ、私は田所香澄(かすみ)」
直生のことがかっこいいから直生を紹介して欲しいって言われてもな。
逆に田所さんのことを私に自己紹介してくれないと、直生に紹介できないよ。
私が田所さんにどう返事をしていいのか困っていると、同じ中学だった友達の園田綾乃(あやの)に声を掛けられた。
「夏芽! おはよう! もうクラス見た? あれ? 夏芽にしては友達作るの早いね。直生はどうしたの?」
綾乃は私と田所さんが一緒にいたから友達ができたって誤解したみたい。
「綾乃、おはよう。綾乃はクラスどうだったの?」
「私は3組だったよ。夏芽も一緒だよ!」
「わぁ、やった! 綾乃と一緒なんて嬉しい」
私と綾乃が同じクラスだったことに喜んでいると、田所さんが怪訝そうな顔をして質問してきた。
「高田さん、だっけ? あなたいつも直生くんと一緒にいるの?」
それを聞いた綾乃が察知して、
「夏芽と直生は幼馴染だから、いつも一緒にいるんだよ。覚えておいてね」
綾乃が田所さんにそう言ってけん制してくれた。
「ふーん。でも付き合ってる訳じゃないんでしょ。なら問題ないわ」
高田さんとそんなやり取りをしていると、直生が私たちのところへ戻ってきて、
「あっ、綾乃おはよう」
直生は綾乃に挨拶をして、そしてチラっと田所さんを見て何か言おうとしたようだったけど綾乃がそれを遮った。
「直生、おはよう。直生は何組だった?」
「僕は1組だった。夏芽は3組だったよ。クラス離れちゃったね」
直生の話を聞いた田所さんが急に直生に話し掛けて、
「あっ、私も同じ1組。私、田所香澄です。一緒にクラスに行こう、直生くん」
そう言って田所さんが直生を連れて行こうとしたけど、私はそれを止めることもできず、
「直生、また後でね。私は綾乃と同じクラスだから大丈夫だよ」
「えっ、ちょっ、夏芽?」
直生はまだ何か私に話したそうだったけど、そのまま田所さんに引きずられるように連れて行かれてしまった。
この場から直生がいなくなると、綾乃から質問された。
「夏芽、今の子誰? 知ってる子なの?」
「ううん、知らない。なんかね、直生がかっこいいから紹介してって頼まれたんだけどさ。私が紹介しなくても自分から話し掛けてたよね。面白い人だね、田所さん」
「なんか気の強そうな子だったね。他の中学校ってあんなに積極的な子が多いのかな。夏芽、私たちも負けないように頑張ろうね」
「うん。がんばろ!」
「ところで、遥生はどうしてるの? もう遥生の学校は入学式終わったんでしょ。遥生の学校の制服ってかっこいいんだよね。夏芽はもう見た?」
「えっ? 遥生の制服ってかっこいいんだ。昨日は会えなかったからまだ遥生の制服姿を見ていないの。今朝も直生を呼びに行った時にはもういなかったし」
「直生であんなにモテるんだから、遥生はもっとモテるかもね。どうするの、あの2人に彼女ができちゃったら。夏芽は淋しくなるね」
「えっ? 直生と遥生に彼女・・・。そんなこと、あるかな」
「やだやだ、夏芽。絶対にたくさん告白されると思うよ。彼女ができちゃったら夏芽はあの2人のそばにはいられなくなっちゃうね」
「そっ、それはしょうがないよ。2人が幸せならいいんじゃない?」
綾乃に言われるまでそんなこと考えたことが無かった。
いつも一緒にいた直生と遥生に彼女ができるなんて、そんなこと。