いつも側にいてくれたね
「何の教科を教えてもらおうかな。そうだな、私ね英語が苦手なの。授業中に先生が何言ってるか分からなくって」
「うーん、英語は自分で単語をたくさん暗記しろよ。グラマーは大丈夫なんだろ?」
「遥生、グラマーって何?」
「グラマーって・・・なんだろ、文法?」
「へぇ、文法のことをグラマーって言うんだ。初めて聞いた。てっきり遥生がエッチなこと言い出したのかと思ったよ」
「ばっ! ばっかじゃね、夏芽。もう本気で帰れよ。俺、もう知らねーから」
「嘘だよ、ごめんって遥生。怒ったの?」
遥生は顔を隠してしまい、私の方を見てくれない。
「変なこと言うなよな。仕方ないだろ、俺の学校の英語の授業は日本語禁止だから文法って言葉は使わねぇんだよ」
「ほんっとに、ごめんなさい。遥生、顔上げてよ」
遥生はやっと顔を私に向けてくれた。
「あれ、遥生の顔、赤いよ。もしかして熱でもあるの?」
私は昔そうしたように、熱がないかどうか確かめようと手をそっと遥生のおでこに当ててみた。
すると勢いよく遥生が私のその手を振り払い、
「熱なんてねーよ。ほんと、マジで帰って夏芽」
私は遥生に手を振り払われたことがショックで、遥生の顔から目が離せなくなって。
「ど、うして? 遥生? 私・・・、えっと」
私の顔を見た遥生がとても驚いた顔をして、
「はぁ? なんで夏芽が泣くんだよ。訳わかんねー」
私は瞬きもできず、大粒の涙を流していた。
「もう帰る。ごめんね、遥生」
そう言うと私は遥生の部屋を飛び出して、直生のいるリビングにも顔を出さず、湯川家を後にした。
びっくりした。
あんな本気で怒った遥生なんて見たことが無かった。
今までは冗談だって言い合ってたのに。
遥生はどうしてあんなに思いっきり私の手を振り払ったの。
振り払われた手よりも、心が痛いよ。