いつも側にいてくれたね
遥生の部屋を飛び出し、まっすぐ自分の部屋に戻るとベッドにダイブして泣いた。
何分くらい経ったかな。
直生が私の部屋まで来てくれて、
「夏芽、どうしたの? 急に帰っちゃうし、遥生に聞いても知らないしか言わないし。遥生と何かあったの?」
「なおきぃ。私、遥生に何か酷いことしちゃったのかなぁ。遥生がね、怒っちゃってね」
「夏芽、そんなに泣くほどのことがあった? ゆっくりでいいから話してごらんよ」
「私ね、遥生のことが良く分からない」
私たちはベッドサイドに寄りかかり隣り合って座り、直生に遥生の部屋での出来事を聞いてもらった。
「そっか。それで遥生が夏芽の手を払ったんだね」
「うん。遥生の顔が真っ赤だったから熱を見てあげようと思っただけなのに。あんなに怒るなんて。どうしてかなぁ」
「それはね、夏芽。もう僕たちは子供じゃないってことだよ。男の子、女の子じゃなくてね、もっと大人にならなきゃだめなんだよ。分かるかな、夏芽」
「うん、なんとなく。もう直生もたくさん告白とかされてるしね。きっと遥生にも付き合ってる人ができたのかもしれないもんね。私の距離感がおかしいんだね」
「ち、ちがうよ夏芽。遥生には彼女なんていないから。そこは誤解しないで」
「遥生だって直生だってかっこいいもん。私がそばにいては邪魔でしょ。私が2人から離れなきゃだめなんでしょ」
「だからさ、そういう意味じゃないの。ああ、もう! さっきの遥生の態度はね、夏芽のことを・・・」
そこまで言って直生が黙ってしまった。
「私のこと、なに?」
「いや、なんでもないよ。とにかく夏芽は僕と遥生のことをもう少し男として意識してよ。それだけ」
「なんか難しいな。だってさ、直生は私のこと女として見てないでしょ? 遥生だってそうだよね」
「そんなことないよ。夏芽はもう立派な女性だろ。僕たちはちゃんと夏芽のことを一人の女性として見てるし、接してるつもりだよ」
「ほんと? いつからそんな風に変わったの?」
「そうだなぁ、夏芽がブラを付け始めた頃かな」
「はぁ?! ばっ、バカ! 直生は何を言ってるのよ! 恥ずかしいでしょ。もう帰って」
私は直生の肩をバシバシ叩いて、直生を部屋から追い出そうとした。
「夏芽、分かっただろ。遥生だって夏芽に対して恥ずかしかったんだと思うよ」
肩を叩いていた手を直生に掴まれて、直生が真剣な顔で私を見ている。
そうだったの、遥生。
私が遥生にエッチなことを言ってるって言ったから?
遥生はそれが恥ずかしかっただけ?
今の私が恥ずかしかったのと一緒だったの?
「うん、分かった。遥生の気持ち、良く分かったよ。私、遥生のところに行ってくる。謝ってくるね」
そう言うと直生を私の部屋に残したまま遥生に会いに行った。
『夏芽。夏芽はさ、誰が好きなんだよ』
そんな直生のつぶやきは耳に入って来なかった。