いつも側にいてくれたね
その日の夜、早々に晩御飯を済ませて私は遥生の部屋を訪ねた。
「はーるーきっ! 入るよ」
そう言いながら遥生の部屋のドアを開ける。
「わっ、夏芽。急に入ってくんなよ。びっくりするだろ。ノックぐらいしろよな」
「ノックなんて今までしたことないよ。遥生だって私の部屋に入る時にノックなんかしないじゃないの」
「大体夏芽はドアなんて閉めてないだろ。いつも行くと開けっ放しだぞ」
まあ、遥生の言う通りなんだけどさ。
「ごめん遥生。今度からちゃんとノックします」
しゅんとなった私を見て遥生が
「もういいよ。で、どうした夏芽」
遥生は笑いながら優しい口調で声を掛けてくれた。
もし勉強が忙しいから帰れって言われたらどうしようかと思っていたから少しだけ緊張してたんだ。
やっぱり遥生は口は悪いけど優しい。
「遥生、勉強忙しいの? 大変?」
「どうしてそう思う?」
「だってさ遥生が勉強大変そうだって、直生が心配してたよ」
「で? 直生の差し金で夏芽が俺の様子を見に来たって訳?」
「ちっ、違うから。確かに聞いたのは直生からだけど、私だって心配してるの」
「どう心配してくれてんだよ」
「だってさ、私と直生のテスト勉強に付き合ってくれてたから遥生自身の勉強をする時間が無かっただろうし。それが原因かなって思ってさ」
「ふっ、そんな訳ないだろ。そのくらいで俺が授業に追いつけなくなるなんてありえねえから」
「本当に? あの時のせいじゃないの?」
「ばかだな、夏芽。要らない心配してんなよ」
「だってさ、遥生に全然会えなかったし、高校生になってから私の部屋に遊びに来てくれるのは直生だけだったし」
「なあ夏芽、それって俺をただ心配してくれてるだけ? それとも俺と会えなくて淋しいって思ってんの? どっち?」
遥生からの思わぬ問いかけにドキっとした。
遥生の心配をしているだけだよね、私。
そうじゃなくて遥生に会えなかったから淋しかったの?
何も返事できない私を見た遥生は
「ははっ! 冗談だよ、夏芽。俺はいつもここにいるだろ。淋しくなったらいつでも来いよ。勉強中は相手してやれないけど、この部屋にいればいい」
遥生は全然変わってない。
ぶっきらぼうで愛嬌を振りまくような男の子じゃないけど、私は遥生だって直生と同じように優しいのを知っているから。
「うん、遊びに来るね。遥生がいつもの遥生で良かった」
「あ! 来るのやっぱり時々にして。夏芽は大人しくしてることができない子だったの忘れてたわ。あははっ」
ほんっとに遥生は全然変わってない!!