いつも側にいてくれたね
俺は少し考えて、コイツに嘘をついた。
「なぁ、お前さ、俺と夏芽が仲いいのは知ってるよな?」
「それは高田さんから聞いてるよ。湯川くんとは幼馴染なんだろ?」
「ああ。でも幼馴染以上なんだよ。夏芽はお前に遠慮してそう言ったかも知れないけど、俺は夏芽が好きだし、夏芽だって俺たち・・・じゃなくて、俺のことが好きなんだよ、きっと」
「そ、それは本当なの?」
「お前さ、見ていて分からなかったか? 鈍感な奴だな」
目の前にいるコイツは言葉を失くしたようにしゃべるのを辞めてしまった。
少しの沈黙の後、
「なんかいつもの湯川くんじゃないみたいだね。いつもの穏やかな感じと違う」
やっべ。直生じゃないのがバレたか。
確かにそうだ。
直生はいつも穏やかで優しい。
俺みたいな言葉遣いはしないよな。
「とっ、とにかくもう夏芽の周りをうろちょろすんな・・・じゃなくて、うろちょろしないでもらえるかな。夏芽は優しいからお前に断れないの理解してやれよ・・・じゃなくて理解してあげて」
くっそ、これ以上直生の真似はできないぞ。
「夏芽のことが好きだったらせめてお前から離れていけ。いや離れて行って下さい」
「・・・そっか。湯川くんに勝てないのは最初から分かってたよ。でもただの幼馴染って聞いて少し期待してしまったんだ。僕から高田さんに断りを入れるよ」
コイツはそう言って夏芽にメールを入れたようだった。
そしてコンビニを出る時、俺に言ったんだ。
「湯川くん、高田さんにちゃんと好きだって言いなよ。言葉にしなきゃ伝わらないものだよ。湯川くんの気持ちは誰にも言わないからさ。じゃね」
はぁー。
俺は頭を抱えてコンビニの中でしゃがみ込んだ。
あの男に直生のふりをして嘘をついてしまった。
夏芽と直生は両想いだと。
そして『言葉にしなきゃ伝わらない』と言われて何も言い返せなかった。
相手が夏芽なんだぞ。
そんなの嫌ってほどわかってんだよ。