いつも側にいてくれたね


「あのね、そこにいるのは湯川直生です。湯川遥生の双子のお兄さんなの。遥生とそっくりだからよく間違えられるんだよね。ね、直生」

「う、うん、そうなんだよね。僕は遥生じゃないよ」

『うっそ―! 湯川くんって双子だったの?』

女の子たちが全員驚いて。

それはそれでまた大騒ぎになってしまった。

「夏芽、そんな所にいないで出てきてよ」

直生が助けてっていう顔で私を見るから、まだ着替えていない撮影用のドレスのまま直生の前に出て行った。

「うわ、夏芽。どうしたのその衣装。とっても可愛い」

やった! 直生にまた可愛いって褒められた。

「うふふっ。直生ありがとう。褒めてもらって嬉しい」

私と直生の会話を唖然と見ていた女の子たちが黙っているはずもなく、

「本当に湯川くんの双子さんなんですか?」

「ええーっ、双子揃って超イケメン」

やっぱり直生もすぐに人気者になるね。

「そっか、それならあなたは湯川くんのお兄さんの彼女さんなんだね」

え? 私が直生の彼女?

「違います。私は直生の彼女じゃないですよ。誤解です」

「そうなの? じゃあ、お兄さんは今フリーなんですか?」

積極的な女の子が直生に迫っている。

「い、いや。フリーとかって。えっと・・・。」

直生が女の子たちに囲まれて返事に困っていると、その中の一人が

「でもさ、弟の湯川くんには彼女がいるしさ。もうお兄さんの方がいいよね」

「遥生には彼女なんていないよ。聞いたこともないし、それに遥生は・・・」

直生はそう言って私の方をチラっと見た。

その直生の目線を女の子たちが見逃すはずもなく、皆が一斉に私を見る。

「お兄さん、違いますよ。湯川くんの彼女はこの子じゃなかった」

「そうだよね、すごく良い雰囲気のお似合いの2人だったよね」

何人からも私は否定されて、そしてメイクをしてくれた子からも

「あなた今日はまだ湯川くんに会っていないんだよね?」

確かに今日はまだ遥生に会っていないし見かけてもいない。

「う、うん。遥生には会っていないけど」

こんなにたくさんの人が遥生と彼女が一緒にいる所を目撃しているなら。

それは誤解なんかじゃないのかな。

本当に遥生には彼女が・・・。

私の心が揺れたことを直生だけは察してくれた。


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