いつも側にいてくれたね


でもそんな私の気持ちは言葉だけでは伝わらなかったみたい。

それまで笑っていた綾乃の顔が一瞬で曇った。

「そんな風に直生のことを思っていたの、夏芽。酷いよ。それじゃ直生の優しさを利用しているだけじゃない。直生は夏芽に対してあんなに優しく接しているのに」

「ちっ、違うの綾乃。そんな意味じゃなくて・・・」

綾乃には伝わってくれると思ったのに。

誤解されるような言い方をした私が悪いね。

「直生がかわいそうだよ。私、ずっと思ってた。直生の気持ちを思うと・・・直生はあんなに夏芽のこと全身で好きだって表現してるのに。どうしてそれを分かってあげられないのよ」

綾乃に言われたことに返す言葉が見つからなくて。

返事ができないでいると綾乃は私に背を向けて走って行ってしまった。

「あっ! 綾乃、待って!!」

私が綾乃を追い掛けようとしたら、

「綾乃は俺が追い掛けるから、永井は高田さんといて」

中島くんがそう言って綾乃を追いかけて行った。

「どうしよう、永井くん。綾乃が・・・」

「うん、きっと大丈夫だよ。綾乃のことは中島に任せよう」

綾乃と中島くんが戻って来るまでホテルで待つしかなくて。

タクシーを待っている列から離れて私と永井くんはホテルのロビーに戻った。

「永井くん、ごめんね。私のせいで今日のスケジュールが遅れちゃう」

「ううん、そんなこといいよ。高田さんは気にしないで」

「でも・・・。」

「それにね、ここだけの秘密にして欲しいんだけど、中島は綾乃のことが好きなんだ。だから綾乃のことはちゃんと説得して連れて帰ってくると思うよ」

「そうなんだ。全然知らなかったな」

「中島はね、綾乃が湯川のことを想っているのも知ってて。綾乃がさっき高田さんに強い口調で言ったこと、分からなくもないんだよね」

綾乃とはなんでも話せる親友だと思っていたのに、綾乃の好きな人が誰かなんて聞いたことなかった。

綾乃はそんな話題が出るたびに「好きな人なんていないよ」って言っていたから、全然気が付かなかった。

綾乃は直生のことが好きだったの?

今までずっと私と直生と遥生の関係を綾乃は一番近くで見てきて、ずっと苦しかったの?

綾乃の言った言葉が頭から離れない。

『直生はあんなに夏芽のこと全身で好きだって表現してるのに。どうしてそれを分かってあげられないのよ』


< 86 / 120 >

この作品をシェア

pagetop