いつも側にいてくれたね


「夏芽? どうしたのその傷。 痛くない? 早く手当てしないと」

直生は私の姿を見て驚いていたけど、すぐにいつものように優しく接してくれる。

「ううん、手当は永井くんにしてもらうし、私は大丈夫だから」

「夏芽、どうして永井なんだよ」

「えっと、それは。永井くんが助けてくれたし、永井くんに手当をお願いしたから」

「別に永井じゃなくてもいいだろ。どうして僕じゃダメなんだよ」

いつもの穏やかな直生の口調じゃない。

直生は溜息を一つして、

「痛くて泣いたんでしょ。どうしていつものように僕を頼ってくれないの。まあ、そのことは後で聞くから。まずはその傷を手当てするよ。夏芽、こっち来て」

「でも・・・」

私がその先を言おうとした時、直生は私の痛くない方の右手を掴んでホテルの中へ入った。

「直生、どこへ行くの? 手を離して」

直生は私の質問に答えず、無言。

「ねえ直生ってば」

「うるさいよ、夏芽。黙ってついてきて」

直生が怒ってる?

今まで直生が私に対して怒ることなんて一度もなかったから、それ以上何も言えなくて。

直生は私を誰かの部屋の前まで連れてくると、

「夏芽、ちょっとここで待ってて。すぐ戻るから」

そう言って直生はその部屋に入っていった。

ここは誰の部屋なんだろう。

私、このまま自分の部屋に逃げちゃおうかな。

そっと後退りした時、直生がその部屋から消毒薬を持って出てきた。

この部屋は救護の先生がいる部屋だったみたい。

直生がすぐに部屋から出てきたから逃げられなかった。

「夏芽、今逃げようとしたでしょ。そんなの無駄だから。どうせ今から夏芽の部屋に行くんだし」

「なんだそうなんだ、って、どうして私の部屋?」

「夏芽さ、そのままじゃダメだろ。それに一体誰のパーカー着てるんだよ。顔の傷も良く見ないと。ほんと夏芽って分かってないんだから」

「なっ、なにがダメなの? 私、なにもダメじゃないもん」

「とにかく早く夏芽の部屋に行くよ」

直生はまた私の手を取ると迷うことなく私の部屋まで連れてきた。

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