いつも側にいてくれたね
自分の部屋に帰って来られたことに安心して。
「直生、ありがとう。もうここで大丈夫だよ」
「は? なに言ってるの夏芽。その傷を処置しなきゃだめでしょ。ほら、部屋に入る!」
「え、大丈夫だって」
「いいから早く入って」
また直生が怒った。
「分かったから、もう怒らないでよ直生」
「僕は怒ってない」
やっぱり怒ってるじゃない。
私たちは言い合いながらも部屋に入ると、部屋のドアが閉まった途端、直生が私を抱きしめてきた。
「夏芽、本当にどうしたの。顔に傷あるし。さっき永井が言ってたけど、転んで腕も怪我したんでしょ」
「う、うん」
怒ったかと思ったらいつもの優しい直生に戻るから。
すっかり忘れていた怪我のことを直生がとても心配するから。
さっきの泥棒のことを思い出してしまって、急に怖くなって体が震える。
「夏芽、ちょっとそのパーカー脱いで腕を見せて」
私は手が震えてパーカーのファスナーが上手く下せなくて。
そんな私の手を優しく包み込み、
「夏芽、もう大丈夫だから。そんなに震えないで」
直生の手が温かくて、直生がいてくれるだけで不安が消える。
安心した途端に涙が滲んで直生の顔が歪んで見えないよ。
そんな私を見かねた直生がパーカーを脱がせてくれて。
「えっ・・・夏芽、何があった? 転んだだけじゃないよね」
直生は破れた服と腕の傷を見て驚いている。
さっきの部屋から持ってきた荷物から消毒薬を取り出すと手際よく私の傷を手当てしてくれた。
「少し痛いかも知れないけど我慢して。早くしないと傷が悪化してしまう」
「痛っ。直生、痛いよぉ」
傷が痛いのか、心が痛いのか、もう分からなくて。
直生を頼らないって思っていたのに、もう無理だった。