いつも側にいてくれたね


「あのね、直生。私ね、函館で・・・」

「うん、函館でどうしたの?」

「バッグを取られてしまったの。スリに遭ってね」

直生は予想していなかったのだろう、とても驚いていた。

「え? 夏芽が? そんなことに巻き込まれたの・・・」

そう言ってまだ震えている私の手を握ってくれた。

「でも追い掛けてバッグは取り戻したの。その時にね、ちょっと怪我してしまっただけなの」

「夏芽、怖かったね。でもね、そんな時は無理に取り返さないで。相手は危険なものを持っているかもしれないでしょ。もう絶対にやめて」

「うん。もう絶対にしない。でもね、どうしてもそのバッグだけは取られたくなかったの。中に大切な物が入ってて。どうしてもそれだけは守りたかったの」

「そっか。お財布とかスマホが入っていたんだね。それでも夏芽が危険な目に遭うくらいなら・・・」

「ちっ、違うの。お財布とかスマホなんてどうでもいいの」

「もっと大切な物? 夏芽にとって凄く大事な物だったの?」

「うん。これ・・・なんだけど」

私はトートバッグから潰れてしまった小さな箱を取り出して直生に渡した。

「これが夏芽の守りたかった大切な物なの?」

直生はその潰れた箱を手に取ると何かを察したようで、

「これ、ラッピングしてあるってことは、遥生にあげようと思ってた物なんだね。そっか。それは大切な物だね」

「ううん、違う。これは直生に渡したかったの。直生へのプレゼントなの。潰れてしまったけど、貰ってくれる?」

「え・・・ぼく、に?」

「うん。いつも私の一番近くにいてくれて私を守ってくれて、ありがとう、直生」

「夏芽・・・」

直生は私に背を向けてしまい、それ以上何も言わなかった。

直生の顔は見えないけど、泣いているのが分かる。

「直生? どうしたの? えっと」

直生が泣いているなんて今まで見たことが無かったから、どうしていいのか分からなくて。

今度は私が直生の背中をそっとさすった。

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