アリンコと佐藤くん
2 ナゾのクールビューティーあらわる!
結局、佐藤くんからのLINEを返信できないまま、数日がたったある日のこと。
「ねぇ、ちょっと!」
ろう下を歩いていると、見知らぬ女の子に声をかけられた。
うわぁ、すごい美人!
アーモンドのようにくっきりした瞳に、シュッと高い鼻。つややかな赤いくちびる。
背がモデルさんみたいに高くって、髪はサラッと長いストレートヘア。
こんなキレイな子が、あたしになんの用だろう?
「有川 凛子って、あんた?」
女の子は仁王立ちしながら、あたしのことをじいっと見下した。
「は、はい……。そうですけど」
なになに? なんなの?
すっごい威圧感……。
「ちょっと来て」
とたんに、ぐいっと腕をつかまれた。
「ど、どこへ?」
「いいから!」
女の子はズルズルと強引にあたしを引っぱっていく。
わー、コワいよー!
あたし、このひとになんか悪いことしたっけ?
理科室に連れて行かれて、そこでようやくあたしは解放された。
部屋にはあたしたち以外誰もおらず、ただただ薬っぽいにおいと、重たい静けさだけが広がっている。
「どうしてこんなところに……?」
女の子はあたしの質問には答えず、ジロッとあたしの顔をにらみつけて。
「あんた、こないだ、なんで虎狼の自転車に乗ってたの?」
えっ?
思わぬ質問に、全身に電流がはしった。
このひと、あたしたちのこと見てたの?
「虎狼から聞いたけど、虎狼にバレンタインのプレゼントあげたのって、あんたなんでしょ?」
佐藤くんから!?
それに、さっきから佐藤くんのこと虎狼って――。
「ぶっちゃけ聞くけど、あんた、虎狼のどこが好きなの?」
「えええ?」
どうしてそんな質問までしてくるの?
このひと、佐藤くんとどういう関係?
「なによ。バレンタインプレゼントあげたくらいだから、少しは虎狼に気があるんでしょ? 虎狼のなにが気に入ったわけ?」
なにがって言われても……。
あれはもともと、別のひとあてのプレゼントだったわけだし。
困っちゃった。どう説明したらいいんだろう?
「言えないの? やっぱり。あんた、妙に怪しいのよね」
女の子は、ニヤッと口の端を上げた。
「怪しい?」
「クラスもちがうし、ライブでもあんたみたいなチンチクリン見たことないし、いったいどこで虎狼と知り合ったの?」
ライブ? それにチンチクリンって、なにそれ! 失礼じゃない?
「あ……あなたこそ、誰なんですか? さっきから一方的にいろんなこと聞いてきて!」
やっとのことで言い返すと、女の子は、キッ! とあたしの顔を見すえて。
「あたしは――」
「宝(ルビ・たから)!」
そのとき、バタバタと足音を立ててやって来たのは――佐藤くん!
「さっき、ろう下でふたりが話してたから、なにかと思ったら……。宝、お前アリちゃんになにしてんだよ」
佐藤くんが女の子に険しい目を向ける。
このひと、宝さんっていうんだ。
うわー、見た目だけじゃなく、名前もキレイ!
「別になんにもしてない。ただちょっと気になったから聞いてみただけ」
宝さんは、ツンとすました顔でつぶやいた。
「聞くってなにを?」
「虎狼のどこが好きなのって。あんた、この子からバレンタインプレゼントもらったって言ってたじゃない」
すると、佐藤くんはみけんに深くしわを寄せて。
「なんでお前がそんなこと知る必要があるんだよ?」
「なんでって、虎狼が心配だからに決まってるでしょ。今までこんな子、全然あんたと接点なかったのに、いきなり近づいてくるなんて」
「確かにオレとアリちゃんはまだ知り合ったばっかりだけど、悪い子でもなんでもねーよ。オレの友だちに失礼なこと言わないでくれ」
「友だち、ね」
宝さんは、氷のように冷たい視線をあたしに投げかけると、
「だけど虎狼、油断しちゃダメよ。こういうおとなしそうなタイプにかぎって、なにかヒミツがあったりするんだから」
と、言い放ち、その場を離れた。
うっ……宝さん、言葉キツいけど、まるであたしの心を見抜いてるみたい。
それに、佐藤くんとも親しそうだったし。
もしかして、宝さんって佐藤くんの彼女なのかな?
「ゴメンな、アリちゃん。あいつ、ふだんあんな口聞くヤツじゃないんだけどさ」
どうしちまったんだ、と面食らったように、佐藤くんは頭の後ろに手を置いた。
「あの子、佐藤くんの彼女?」
「え?」
「だ、ダメだよ佐藤くん! あんなキレイな彼女さんがいるのに、あたしになんて、かまってちゃ。彼女もヤキモチやいて当然だよ」
ところが、佐藤くんは「はい?」と首をかしげた。
「なに言ってんだアリちゃん。オレに彼女なんていねーって」
うそ! だって、宝さんあんなに佐藤くんのこと気にかけてたのに?
「ひょっとして、オレが彼女もちだと思ってLINE返してこなかったのか? そんなエンリョしなくていーのに」
佐藤くんてば、いたずらっぽく笑ってる。ひとの気も知らないで……!
「じゃあ、宝さんはいったい?」
「あいつ? 宝は、オレたちのバンドメンバー。同い年で、小学生のころからのつき合いなんだ」
「バンド?」
思いがけない言葉に、あたしは目を丸くする。
「オレんち両親が音楽教室経営してて。父ちゃんドラマーで、母ちゃんがボイトレの先生。オレは父ちゃんの知り合いにギター習ってて、兄ちゃんはキーボード。みんな音楽やってんだよ」
「そうなんだ……!」
ビックリ。佐藤くんの家、そんな音楽一家だったんだ。
「宝はプロのボーカリスト志望で、十歳のころから、母ちゃんのボーカルレッスン受けに来てて。そんで、そのうちオレと兄ちゃんと宝とでバンド組むようになったんだ。さいきんはライブハウスとかにも出させてもらえるようになって、けっこう評判もよくってさ」
すごい、宝さんプロめざしてるんだ。
それに、佐藤くんたち中学生でライブ活動してるなんて。
「ねぇねぇ、そのバンドってどんなの?」
佐藤くんは、ふふっと笑って、
「もちろんロック。アコギじゃねーよ」
「じゃあ佐藤くんのファッションは――」
今までヤンキーっぽいと思ってたけど……。
「これも好きなバンドの影響。アリちゃん、暴走族だとかんちがいしてただろ?」
佐藤くんがズバリ! とあたしの心を言い当てた。
「あ、あたしはそんなっ!」
ブンブンと両手をふって否定してみせたけど、
「あはは、ごまかしてもムダだって。アリちゃんしっかり顔に出てるし」
ニヤニヤ笑う佐藤くん。まいったなぁ。あたし、そんなに分かりやすい?
佐藤くんはおかしそうにあたしのことを見つめてる。
けれども、そのあと、ふうっとさびしそうにため息をついて。
「だけど、このカッコもいつまでできるか分かんねーんだよな」
と、長めの金髪をいじった。
それって、どういうことだろう……?
「ねぇ、ちょっと!」
ろう下を歩いていると、見知らぬ女の子に声をかけられた。
うわぁ、すごい美人!
アーモンドのようにくっきりした瞳に、シュッと高い鼻。つややかな赤いくちびる。
背がモデルさんみたいに高くって、髪はサラッと長いストレートヘア。
こんなキレイな子が、あたしになんの用だろう?
「有川 凛子って、あんた?」
女の子は仁王立ちしながら、あたしのことをじいっと見下した。
「は、はい……。そうですけど」
なになに? なんなの?
すっごい威圧感……。
「ちょっと来て」
とたんに、ぐいっと腕をつかまれた。
「ど、どこへ?」
「いいから!」
女の子はズルズルと強引にあたしを引っぱっていく。
わー、コワいよー!
あたし、このひとになんか悪いことしたっけ?
理科室に連れて行かれて、そこでようやくあたしは解放された。
部屋にはあたしたち以外誰もおらず、ただただ薬っぽいにおいと、重たい静けさだけが広がっている。
「どうしてこんなところに……?」
女の子はあたしの質問には答えず、ジロッとあたしの顔をにらみつけて。
「あんた、こないだ、なんで虎狼の自転車に乗ってたの?」
えっ?
思わぬ質問に、全身に電流がはしった。
このひと、あたしたちのこと見てたの?
「虎狼から聞いたけど、虎狼にバレンタインのプレゼントあげたのって、あんたなんでしょ?」
佐藤くんから!?
それに、さっきから佐藤くんのこと虎狼って――。
「ぶっちゃけ聞くけど、あんた、虎狼のどこが好きなの?」
「えええ?」
どうしてそんな質問までしてくるの?
このひと、佐藤くんとどういう関係?
「なによ。バレンタインプレゼントあげたくらいだから、少しは虎狼に気があるんでしょ? 虎狼のなにが気に入ったわけ?」
なにがって言われても……。
あれはもともと、別のひとあてのプレゼントだったわけだし。
困っちゃった。どう説明したらいいんだろう?
「言えないの? やっぱり。あんた、妙に怪しいのよね」
女の子は、ニヤッと口の端を上げた。
「怪しい?」
「クラスもちがうし、ライブでもあんたみたいなチンチクリン見たことないし、いったいどこで虎狼と知り合ったの?」
ライブ? それにチンチクリンって、なにそれ! 失礼じゃない?
「あ……あなたこそ、誰なんですか? さっきから一方的にいろんなこと聞いてきて!」
やっとのことで言い返すと、女の子は、キッ! とあたしの顔を見すえて。
「あたしは――」
「宝(ルビ・たから)!」
そのとき、バタバタと足音を立ててやって来たのは――佐藤くん!
「さっき、ろう下でふたりが話してたから、なにかと思ったら……。宝、お前アリちゃんになにしてんだよ」
佐藤くんが女の子に険しい目を向ける。
このひと、宝さんっていうんだ。
うわー、見た目だけじゃなく、名前もキレイ!
「別になんにもしてない。ただちょっと気になったから聞いてみただけ」
宝さんは、ツンとすました顔でつぶやいた。
「聞くってなにを?」
「虎狼のどこが好きなのって。あんた、この子からバレンタインプレゼントもらったって言ってたじゃない」
すると、佐藤くんはみけんに深くしわを寄せて。
「なんでお前がそんなこと知る必要があるんだよ?」
「なんでって、虎狼が心配だからに決まってるでしょ。今までこんな子、全然あんたと接点なかったのに、いきなり近づいてくるなんて」
「確かにオレとアリちゃんはまだ知り合ったばっかりだけど、悪い子でもなんでもねーよ。オレの友だちに失礼なこと言わないでくれ」
「友だち、ね」
宝さんは、氷のように冷たい視線をあたしに投げかけると、
「だけど虎狼、油断しちゃダメよ。こういうおとなしそうなタイプにかぎって、なにかヒミツがあったりするんだから」
と、言い放ち、その場を離れた。
うっ……宝さん、言葉キツいけど、まるであたしの心を見抜いてるみたい。
それに、佐藤くんとも親しそうだったし。
もしかして、宝さんって佐藤くんの彼女なのかな?
「ゴメンな、アリちゃん。あいつ、ふだんあんな口聞くヤツじゃないんだけどさ」
どうしちまったんだ、と面食らったように、佐藤くんは頭の後ろに手を置いた。
「あの子、佐藤くんの彼女?」
「え?」
「だ、ダメだよ佐藤くん! あんなキレイな彼女さんがいるのに、あたしになんて、かまってちゃ。彼女もヤキモチやいて当然だよ」
ところが、佐藤くんは「はい?」と首をかしげた。
「なに言ってんだアリちゃん。オレに彼女なんていねーって」
うそ! だって、宝さんあんなに佐藤くんのこと気にかけてたのに?
「ひょっとして、オレが彼女もちだと思ってLINE返してこなかったのか? そんなエンリョしなくていーのに」
佐藤くんてば、いたずらっぽく笑ってる。ひとの気も知らないで……!
「じゃあ、宝さんはいったい?」
「あいつ? 宝は、オレたちのバンドメンバー。同い年で、小学生のころからのつき合いなんだ」
「バンド?」
思いがけない言葉に、あたしは目を丸くする。
「オレんち両親が音楽教室経営してて。父ちゃんドラマーで、母ちゃんがボイトレの先生。オレは父ちゃんの知り合いにギター習ってて、兄ちゃんはキーボード。みんな音楽やってんだよ」
「そうなんだ……!」
ビックリ。佐藤くんの家、そんな音楽一家だったんだ。
「宝はプロのボーカリスト志望で、十歳のころから、母ちゃんのボーカルレッスン受けに来てて。そんで、そのうちオレと兄ちゃんと宝とでバンド組むようになったんだ。さいきんはライブハウスとかにも出させてもらえるようになって、けっこう評判もよくってさ」
すごい、宝さんプロめざしてるんだ。
それに、佐藤くんたち中学生でライブ活動してるなんて。
「ねぇねぇ、そのバンドってどんなの?」
佐藤くんは、ふふっと笑って、
「もちろんロック。アコギじゃねーよ」
「じゃあ佐藤くんのファッションは――」
今までヤンキーっぽいと思ってたけど……。
「これも好きなバンドの影響。アリちゃん、暴走族だとかんちがいしてただろ?」
佐藤くんがズバリ! とあたしの心を言い当てた。
「あ、あたしはそんなっ!」
ブンブンと両手をふって否定してみせたけど、
「あはは、ごまかしてもムダだって。アリちゃんしっかり顔に出てるし」
ニヤニヤ笑う佐藤くん。まいったなぁ。あたし、そんなに分かりやすい?
佐藤くんはおかしそうにあたしのことを見つめてる。
けれども、そのあと、ふうっとさびしそうにため息をついて。
「だけど、このカッコもいつまでできるか分かんねーんだよな」
と、長めの金髪をいじった。
それって、どういうことだろう……?