アリンコと佐藤くん

2 これでサヨナラ?

 そして、今日は日曜日。
 ふだんはきっちり結んでいたおさげ頭をほどいて、ヘアアイロンで髪を軽くカール。
 ヘッドドレスとワンピースが華やかなので、濃い目の色つきリップを塗って顔にアクセントをつける。
 ホントはチークもつけたほうがかわいいって、ファッション誌には書いてあったけど、あたし、肌がかぶれやすいからこんな感じでいいかな?
 足元はリボンのついた黒いバレエシューズ。
 いよいよ、いよいよだ。
 緊張しながら家のドアを開けて外に出ると、ふわっとあたたかい春風が吹いて。
 悲しいくらい晴れわたった青空が広がっていた。

 バスに乗り、駅前のデパート近くの停留所で降りると。
 以前、佐藤くんに助けてもらった横断歩道が目に入った。
 今でもはっきり覚えてる。あの寒くて暗い雪の日の夕暮れ。
 車にひかれそうになったとき、佐藤くんがあたしのこと抱きかかえて守ってくれたんだ。
 だけど、そのとき、あたし佐藤くんに小さい子にまちがえられたのが恥ずかしくって、逃げ帰っちゃったんだっけ。
 思い出すと、今でもついクスッと笑みがこぼれてきちゃう。
 あのときは、佐藤くんがいかにも凶悪なヤンキーに見えてすっごくコワかったのに。
 もう顔合わせたくないとまで思ってたのに……。
「あっ!」
 横断歩道の向こう。佐藤くんが歩いているのが見えた。
 待ち合わせ場所のデパートへ向かってるみたい。
 黒いミリタリージャケットに無地のトレーナーと、カーキのカーゴパンツを合わせた装い。
 シンプルだけどクールなスタイリングだなぁ。
 七五三みたいなあたしとはまるで大ちがい。
 今日のあたしのカッコみたら、やっぱりドン引きされちゃうよね……。
 モヤモヤ考えていると、信号が青に変わった。
 行かなくちゃ。
 もう迷ってるヒマはない。
 さぁ、作戦スタートだ!
「おはよう! 佐藤くん♪」
 横断歩道を渡って、あたしは佐藤くんに声をかけた。
 今日の天気に負けないくらい、明るいほほえみを浮かべて。
「アリちゃん!?」
 あたしに気づいた佐藤くんは、まるでオバケにでも出会ったように驚いた表情を浮かべてる。
「えへへへ、どうかな? このカッコ」
 スカートを両手で広げ、無邪気に笑ってみせるあたしを見たとたん。
 佐藤くんはパッと目をそむけ、顔を手でおおった。
「やべぇ……オレ、ムリだわ」
 ムリ――。
 その言葉が深く胸につき刺さる。
 やっぱり。想像したとおりの拒否反応。
「ちょ……ちょっとブリッコすぎてビックリしちゃった?」
 見事に作戦成功。あんまりうまくいきすぎて泣きたいくらい。
 やっぱり、あたしと佐藤くんじゃ全然――。
「ちげーよ……」
 えっ?
「今日のアリちゃん、すっげーかわいすぎて直視できねぇ!!」
 えぇーーーーーーーっ!
 予想外のできごとに、開いた口がふさがらない。
 うつむいている佐藤くんの横顔は明らかに真っ赤っか。
 あれれ? そんな、こんなはずじゃ……。
「いや、ゴメン。いっつもマジメで落ち着いた感じのアリちゃん見慣れてたから、今日のキラッキラなアリちゃん見てると、心臓がもたねぇ!」
 うそーーーーーーっ? 
 信じられないけど、とても信じられないけど。
 あたしのカッコ、佐藤くんに気に入られてる?
 佐藤くんは片手で胸をおさえながら、
「ホント、今日のアリちゃん、お姫さまみたいだ。ゴメンな、オレの服地味で」
 と、軽く頭を下げた。
「そんなことないよっ! 佐藤くんの服装、いつもクールでカッコいいもん!」
 すると、佐藤くんはますます顔を赤くして。
「サンキューな。そんじゃ、今日はよろしく。アリンコ姫!」
 と、はにかんだ。
 心臓がトクトクと波打ちはじめる。
 どうしよう、どうしよう。
 ファッションをほめられたのはうれしいけど。
 思いがけない方向に進んじゃった……。
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