アリンコと佐藤くん
4 あたしの大好きなもの
あたしたちは、駅前のデパートのなかにある映画館にやって来た。
佐藤くんは劇場案内を見ながら、
「で、アリちゃんの観たいのってどれ? 今CMでやってる恋愛もの? それとも洋画のアクションもの? この映画ならオレも気になってたんだ」
と、あたしに聞いてきた。
「あのね、これなんだけど――」
あたしは、照れながら看板を指さした。
『劇場版 フワもこフレンズ~愛は銀河を超えて~』
タイトルの下には、『もこフレ』が勢ぞろいしたイラストが描かれている。
「これ、まんじゅうの妖精じゃねーか! アリちゃんの好きな。ビックリした、映画にまで出てんのかよ。超有名人だな」
「あたし、『もこフレ』大好きだから、どうしても観たくってー♪」
でも、この映画って小さな子向けだから、前に芙美ちゃんさそおうとしたんだけど、
「『もこフレ』はかわいいけど、ちっちゃい子たちにまじって映画観るなんてハズカシイ!」
って、断られちゃったんだよね。
『もこフレ』に詳しくない佐藤くんなら、なおさら興味ないよね。
「こんなガキくせーところにいられるか!」
って、今度こそガッカリする……かな?
佐藤くんは、腕を組んでポスターを見上げながら、
「オレにとっては未知のジャンルだな」
とポツリ。
「やっぱり興味ない? 子どもっぽくてみっともないかな」
そうだよね。佐藤くんの趣味にはあまりにも合わない――。
「いや、そうじゃねー」
佐藤くんは小さく首を横に振る。
「オレこういうの全然詳しくないけど、アリちゃんがそんだけ好きなら、試しに観てみたい」
ええっ?
「いいの?」
佐藤くんは、あたり前だ! とうなずいて。
「アリちゃん、オレがゲーセンでぬいぐるみあげたとき、あんなにうれしそうにしてたじゃん。映画観たらどんな顔するか、オレ楽しみなんだ」
と、顔をほころばせた。
「佐藤くん……」
「おっ、上映まで十五分前じゃん。アリちゃん、早くチケット買おう」
「う、うん!」
「学生さん二枚ですね。こちら、入場特典になります」
カウンターで手渡されたのは、チケットと、手のひらサイズの小さな袋。
「これなんだ?」
「入場特典だって言ってたけど」
佐藤くんとそれぞれ袋を開けてみる。
あたしの袋から出てきたのは、リボンをつけたまんまるピンクの『もこフレ』。
「わぁっ、メルルンだ! メルルンのマスコットが入ってる」
「それ、こないだオレがあげたぬいぐるみと同じやつだ。アリちゃん、引きいいな。いちばんお気に入りのキャラなんだろ?」
「そうなの! 佐藤くんは?」
「オレのは、なんか目つき悪いのが出てきた」
佐藤くんが手にしてるのは、黄色くて、ちょっとムスッとした顔のキャラ。
「あっ、ボアボア! ボアボアもかわいいよね」
「そうか? なんかハズレ引いちまった気もするけど」
「でも、ボアボアって、『もこフレ』のリーダーなんだよ。すっごく頼りになるの」
「詳しいな、アリちゃん。じゃあ、あそこにいる緑のは?」
佐藤くんが、『もこフレ』のポスターを指さす。
「フラクタ。編み物が得意なの」
「じゃあ、あの白いのと、紫っぽいのは?」
「フニャコと、それから――」
次々に答えていくと、佐藤くんは感心したように、
「すっげー、アリちゃん。まんじゅうの妖精博士だな」
と口にした。
そ……そんな博士に認定されても困っちゃうな。
「やだやだ! こんなのやだーっ!」
なんだろう?
上映スクリーンの入り口付近で、ちっちゃな女の子がワンワン泣いて、お母さんが困った顔してる。
「しょうがないじゃない。ひとつしかもらえない決まりなんだから」
必死になだめるお母さんの横で、
「やだやだ、メルルンがよかったのにーっ!」
大声でわめいてる女の子。
メルルン?
なにがあったんだろう。
「すみません、どうかしたんですか?」
あたしがその親子連れにかけ寄ると、お母さんは申し訳なさそうに、
「ごめんなさい、騒がしくて。この子、メルルンのマスコットが欲しかったみたいなんですけど、ちがうのが出たからついかんしゃく起こしちゃって……」
と、頭を下げた。
女の子の手に握られてるのは、ボアボアのマスコット。
「それなら、あたしのと交換しませんか? あたし、メルルン持ってるんです」
「ホント?」
女の子が涙目のまま、あたしの顔をじっと見る。
「うん! メルルンかわいいよね。あたしも大好きなんだ。だけど、あなたが大切にしてくれるなら、このメルルンはプレゼントするよ。代わりにボアボアくれないかな?」
あたしがメルルンを手渡すと、女の子はパッと笑顔を浮かべて、
「ありがとう、おねえちゃん!」
と、あたしにボアボアを差し出した。
「どうもありがとうございます。よかったわね!」
「うん!」
女の子はさっきの泣き顔がウソみたいにふき飛んで、ごきげんに客席に入って行った。
「よかったのかよ、アリちゃん。さっきの子にあげちゃって。アリちゃんだって欲しかったんだろ?」
あたしは、佐藤くんにコクンとうなずき、
「あたしは、来ようと思えばまた映画館に来てマスコットもらえるけど、あの子は、まだ小さいからそういうわけにはいかないでしょ? それに、メルルンが大好きなら、きっとあたし以上にあのマスコット大切にしてくれるよ」
と答えた。
すると、佐藤くんはあたしの手からボアボアのマスコットを拾い上げて、
「よかったな、お前。アリちゃんに助けてもらって。感謝しろよ」
とつぶやいた。
思いがけず、佐藤くんとマスコットおそろいになっちゃった……。
佐藤くんは劇場案内を見ながら、
「で、アリちゃんの観たいのってどれ? 今CMでやってる恋愛もの? それとも洋画のアクションもの? この映画ならオレも気になってたんだ」
と、あたしに聞いてきた。
「あのね、これなんだけど――」
あたしは、照れながら看板を指さした。
『劇場版 フワもこフレンズ~愛は銀河を超えて~』
タイトルの下には、『もこフレ』が勢ぞろいしたイラストが描かれている。
「これ、まんじゅうの妖精じゃねーか! アリちゃんの好きな。ビックリした、映画にまで出てんのかよ。超有名人だな」
「あたし、『もこフレ』大好きだから、どうしても観たくってー♪」
でも、この映画って小さな子向けだから、前に芙美ちゃんさそおうとしたんだけど、
「『もこフレ』はかわいいけど、ちっちゃい子たちにまじって映画観るなんてハズカシイ!」
って、断られちゃったんだよね。
『もこフレ』に詳しくない佐藤くんなら、なおさら興味ないよね。
「こんなガキくせーところにいられるか!」
って、今度こそガッカリする……かな?
佐藤くんは、腕を組んでポスターを見上げながら、
「オレにとっては未知のジャンルだな」
とポツリ。
「やっぱり興味ない? 子どもっぽくてみっともないかな」
そうだよね。佐藤くんの趣味にはあまりにも合わない――。
「いや、そうじゃねー」
佐藤くんは小さく首を横に振る。
「オレこういうの全然詳しくないけど、アリちゃんがそんだけ好きなら、試しに観てみたい」
ええっ?
「いいの?」
佐藤くんは、あたり前だ! とうなずいて。
「アリちゃん、オレがゲーセンでぬいぐるみあげたとき、あんなにうれしそうにしてたじゃん。映画観たらどんな顔するか、オレ楽しみなんだ」
と、顔をほころばせた。
「佐藤くん……」
「おっ、上映まで十五分前じゃん。アリちゃん、早くチケット買おう」
「う、うん!」
「学生さん二枚ですね。こちら、入場特典になります」
カウンターで手渡されたのは、チケットと、手のひらサイズの小さな袋。
「これなんだ?」
「入場特典だって言ってたけど」
佐藤くんとそれぞれ袋を開けてみる。
あたしの袋から出てきたのは、リボンをつけたまんまるピンクの『もこフレ』。
「わぁっ、メルルンだ! メルルンのマスコットが入ってる」
「それ、こないだオレがあげたぬいぐるみと同じやつだ。アリちゃん、引きいいな。いちばんお気に入りのキャラなんだろ?」
「そうなの! 佐藤くんは?」
「オレのは、なんか目つき悪いのが出てきた」
佐藤くんが手にしてるのは、黄色くて、ちょっとムスッとした顔のキャラ。
「あっ、ボアボア! ボアボアもかわいいよね」
「そうか? なんかハズレ引いちまった気もするけど」
「でも、ボアボアって、『もこフレ』のリーダーなんだよ。すっごく頼りになるの」
「詳しいな、アリちゃん。じゃあ、あそこにいる緑のは?」
佐藤くんが、『もこフレ』のポスターを指さす。
「フラクタ。編み物が得意なの」
「じゃあ、あの白いのと、紫っぽいのは?」
「フニャコと、それから――」
次々に答えていくと、佐藤くんは感心したように、
「すっげー、アリちゃん。まんじゅうの妖精博士だな」
と口にした。
そ……そんな博士に認定されても困っちゃうな。
「やだやだ! こんなのやだーっ!」
なんだろう?
上映スクリーンの入り口付近で、ちっちゃな女の子がワンワン泣いて、お母さんが困った顔してる。
「しょうがないじゃない。ひとつしかもらえない決まりなんだから」
必死になだめるお母さんの横で、
「やだやだ、メルルンがよかったのにーっ!」
大声でわめいてる女の子。
メルルン?
なにがあったんだろう。
「すみません、どうかしたんですか?」
あたしがその親子連れにかけ寄ると、お母さんは申し訳なさそうに、
「ごめんなさい、騒がしくて。この子、メルルンのマスコットが欲しかったみたいなんですけど、ちがうのが出たからついかんしゃく起こしちゃって……」
と、頭を下げた。
女の子の手に握られてるのは、ボアボアのマスコット。
「それなら、あたしのと交換しませんか? あたし、メルルン持ってるんです」
「ホント?」
女の子が涙目のまま、あたしの顔をじっと見る。
「うん! メルルンかわいいよね。あたしも大好きなんだ。だけど、あなたが大切にしてくれるなら、このメルルンはプレゼントするよ。代わりにボアボアくれないかな?」
あたしがメルルンを手渡すと、女の子はパッと笑顔を浮かべて、
「ありがとう、おねえちゃん!」
と、あたしにボアボアを差し出した。
「どうもありがとうございます。よかったわね!」
「うん!」
女の子はさっきの泣き顔がウソみたいにふき飛んで、ごきげんに客席に入って行った。
「よかったのかよ、アリちゃん。さっきの子にあげちゃって。アリちゃんだって欲しかったんだろ?」
あたしは、佐藤くんにコクンとうなずき、
「あたしは、来ようと思えばまた映画館に来てマスコットもらえるけど、あの子は、まだ小さいからそういうわけにはいかないでしょ? それに、メルルンが大好きなら、きっとあたし以上にあのマスコット大切にしてくれるよ」
と答えた。
すると、佐藤くんはあたしの手からボアボアのマスコットを拾い上げて、
「よかったな、お前。アリちゃんに助けてもらって。感謝しろよ」
とつぶやいた。
思いがけず、佐藤くんとマスコットおそろいになっちゃった……。