アリンコと佐藤くん
6 魔法の時間
映画が終わると、小さな子たちがワラワラと会場の外に飛び出していった。
「ダメダメ、ひとりで勝手にどこかに行っちゃ。迷子になっちゃうでしょ」
離ればなれにならないよう子どもと手をつなぐ、お父さんやお母さんたち。
その様子を見ていた佐藤くんが、あたしの手を握った。
「アリちゃんも、人ごみにまぎれないようしっかり手つないでおかなきゃな」
どこかおもしろそうに、クスクス笑ってる。
「あたし、もうちっちゃな子じゃないもん」
つい恥ずかしくなってうつむくと、
「なーんてな、ジョーダンだよ。オレがアリちゃんとこうして手つないでいたいだけ」
耳元でそうささやく声が聞こえた。
「え……?」
見上げた佐藤くんの顔はとってもやさしそうで。
心臓のドキドキが一気に高まる。
ふつうに歩いているのに、まるで突然スローモーションになったみたい。
まわりの景色が、いつもよりゆっくりと流れてく。
目に映る光景が、夢なのか、現実なのかどこかあいまいで。
ふわふわっと、身体が宙に浮いてるみたいに落ち着かない。
「ゴメンな、アリちゃん」
「え?」
「ほら、はじめて横断歩道で会ったとき。オレ、アリちゃんのこと、ちっちぇー子だとかんちがいしてたじゃん。あのときのこと、ちゃんと謝らなくちゃなって思ってたんだ」
「ええっ? 大丈夫だよ、そんなの。あたし、ちっちゃな子扱いされるのなんて、なれっこだし」
「でも、こうやってアリちゃんといっしょにいるうちに、オレ、すっげーまちがってたってことに気づいてさ」
「どういうこと?」
佐藤くんは照れくさそうに目をふせて。
「アリちゃんは、オレなんかよりもずっとずっと大人だなって。テスト勉強に取り組む姿勢や、今日みたいにちっちぇー子に自分の好きなものゆずってあげられる思いやりとか。アリちゃんは、見かけはオレよりもかなりちっちぇーかもしれねーけど、中身はオレよりもはるかにしっかりしてるな、ってそう感じたんだ」
あたしが、大人?
「そんな……そんなこと」
ほめすぎだよ。
だいたい、見かけで勝手に判断していたのはあたしのほう。
はじめて佐藤くんを見かけたときは、とってもおっかない感じのヤンキーだと思ってた。
だけど、実際はとってもやさしくて、素直で明るくて、ちょっぴりコワがりなところもあって。
そういった一面を発見するたびに、まるで自分だけの宝物を見つけたみたいに、とってもうれしくなって、気がついたら、ずっと手放したくなくなって――。
つないでいた手にギュッ、と力がこもった。
「アリちゃん、オレさ」
「なに?」
佐藤くんの目を見つめた瞬間。
「オレ、アリちゃんが好きだ」
うそ……?
今の、あたしの聞きまちがいじゃないよね?
「こうやってアリちゃんといると、いっつもホッとするんだ。アリちゃんの笑顔や楽しそうな様子見てると、いつの間にかこっちも幸せになってきて、ずっといっしょにいたいな、って思うようになったんだ。アリちゃん、オレと……つき合ってくれねぇ?」
その言葉に、全身から一気に力がぬける。
もうダメ。作戦は大失敗に終わっちゃった。
これ以上、自分の気持ちにウソはつけない。
あたしもおんなじだよ。
あたしも佐藤くんのことが大好き。
きらわれたくなんかない。
このままずっといっしょにいたい。
うれしいのに、今すごくうれしいのに。
胸のなかから喜びがあふれてくるのと同時に、自分のついたウソが、毒ヘビみたいにのど元をしめつけてる。
ズルいよ……あたし。
はじめは、別のひとにバレンタインプレゼントあげるつもりだったのに。
佐藤くんにホントのこと言えてないのに。
罪悪感のあまり、うれしさが、またたく間に苦しさに変わってく。
このまま佐藤くんと両想いになろうなんて、そんなの……そんなのまちがってる!
「ゴメンっ……!」
「アリちゃん!?」
あたしは佐藤くんの手をふりはらうと、そのまま逃げるようにかけ出した。
あたしの姿は、あっという間に人ごみにまぎれて見えなくなる。
涙があふれて止まらない。
だけど、行きかうひとたちは、そんなあたしの姿なんて誰も気にも止めないでいる。
今のあたしは、まるで石ころみたいに、ただのちっぽけな存在。
ホントはずっと手をつないでいたかった。
佐藤くんのとなりにいたかった。
いつもそばにいて、これからもどこかに遊びに行ったり、勉強したり。
いつかはギターの演奏も生で聴かせてくれたらいいなって願ってた。
これまでは、恋なんてどんなものかハッキリ分からなかったんだ。
ただ、なんとなくクラスで人気の男の子と親しくなれたらいいな、なんて軽く考えてた。
でも、佐藤くんに出会ってから、苦手だったはずの佐藤くんの存在がだんだん大きくなって。
関わりたくないって思ってたのに、いつの間にかどんどんひかれていって。
気づけば、自分でもおさえきれないくらい大好きになっちゃったんだ、佐藤くんのこと。
ゴメンね、佐藤くん。
あたし、自分の気持ちから逃げてたの。
佐藤くんのこと、大好きなのに。
あたし、どうしてもホントのことが言い出せなかったひきょうな自分自身が大キライなんだ……。
家に帰って鏡を見てみると、ずいぶん走ったのと大泣きしてたせいか、髪はセットがくずれてバラバラ、スカートはよれよれ。泣きすぎて目がはれてる。
みっともないなぁ。十二時を過ぎちゃったシンデレラみたい。
どこもかしこもボロッボロ。
楽しかった魔法の時間はもうおしまい。
明日から、どんな顔して学校に行けばいいんだろう……。
「ダメダメ、ひとりで勝手にどこかに行っちゃ。迷子になっちゃうでしょ」
離ればなれにならないよう子どもと手をつなぐ、お父さんやお母さんたち。
その様子を見ていた佐藤くんが、あたしの手を握った。
「アリちゃんも、人ごみにまぎれないようしっかり手つないでおかなきゃな」
どこかおもしろそうに、クスクス笑ってる。
「あたし、もうちっちゃな子じゃないもん」
つい恥ずかしくなってうつむくと、
「なーんてな、ジョーダンだよ。オレがアリちゃんとこうして手つないでいたいだけ」
耳元でそうささやく声が聞こえた。
「え……?」
見上げた佐藤くんの顔はとってもやさしそうで。
心臓のドキドキが一気に高まる。
ふつうに歩いているのに、まるで突然スローモーションになったみたい。
まわりの景色が、いつもよりゆっくりと流れてく。
目に映る光景が、夢なのか、現実なのかどこかあいまいで。
ふわふわっと、身体が宙に浮いてるみたいに落ち着かない。
「ゴメンな、アリちゃん」
「え?」
「ほら、はじめて横断歩道で会ったとき。オレ、アリちゃんのこと、ちっちぇー子だとかんちがいしてたじゃん。あのときのこと、ちゃんと謝らなくちゃなって思ってたんだ」
「ええっ? 大丈夫だよ、そんなの。あたし、ちっちゃな子扱いされるのなんて、なれっこだし」
「でも、こうやってアリちゃんといっしょにいるうちに、オレ、すっげーまちがってたってことに気づいてさ」
「どういうこと?」
佐藤くんは照れくさそうに目をふせて。
「アリちゃんは、オレなんかよりもずっとずっと大人だなって。テスト勉強に取り組む姿勢や、今日みたいにちっちぇー子に自分の好きなものゆずってあげられる思いやりとか。アリちゃんは、見かけはオレよりもかなりちっちぇーかもしれねーけど、中身はオレよりもはるかにしっかりしてるな、ってそう感じたんだ」
あたしが、大人?
「そんな……そんなこと」
ほめすぎだよ。
だいたい、見かけで勝手に判断していたのはあたしのほう。
はじめて佐藤くんを見かけたときは、とってもおっかない感じのヤンキーだと思ってた。
だけど、実際はとってもやさしくて、素直で明るくて、ちょっぴりコワがりなところもあって。
そういった一面を発見するたびに、まるで自分だけの宝物を見つけたみたいに、とってもうれしくなって、気がついたら、ずっと手放したくなくなって――。
つないでいた手にギュッ、と力がこもった。
「アリちゃん、オレさ」
「なに?」
佐藤くんの目を見つめた瞬間。
「オレ、アリちゃんが好きだ」
うそ……?
今の、あたしの聞きまちがいじゃないよね?
「こうやってアリちゃんといると、いっつもホッとするんだ。アリちゃんの笑顔や楽しそうな様子見てると、いつの間にかこっちも幸せになってきて、ずっといっしょにいたいな、って思うようになったんだ。アリちゃん、オレと……つき合ってくれねぇ?」
その言葉に、全身から一気に力がぬける。
もうダメ。作戦は大失敗に終わっちゃった。
これ以上、自分の気持ちにウソはつけない。
あたしもおんなじだよ。
あたしも佐藤くんのことが大好き。
きらわれたくなんかない。
このままずっといっしょにいたい。
うれしいのに、今すごくうれしいのに。
胸のなかから喜びがあふれてくるのと同時に、自分のついたウソが、毒ヘビみたいにのど元をしめつけてる。
ズルいよ……あたし。
はじめは、別のひとにバレンタインプレゼントあげるつもりだったのに。
佐藤くんにホントのこと言えてないのに。
罪悪感のあまり、うれしさが、またたく間に苦しさに変わってく。
このまま佐藤くんと両想いになろうなんて、そんなの……そんなのまちがってる!
「ゴメンっ……!」
「アリちゃん!?」
あたしは佐藤くんの手をふりはらうと、そのまま逃げるようにかけ出した。
あたしの姿は、あっという間に人ごみにまぎれて見えなくなる。
涙があふれて止まらない。
だけど、行きかうひとたちは、そんなあたしの姿なんて誰も気にも止めないでいる。
今のあたしは、まるで石ころみたいに、ただのちっぽけな存在。
ホントはずっと手をつないでいたかった。
佐藤くんのとなりにいたかった。
いつもそばにいて、これからもどこかに遊びに行ったり、勉強したり。
いつかはギターの演奏も生で聴かせてくれたらいいなって願ってた。
これまでは、恋なんてどんなものかハッキリ分からなかったんだ。
ただ、なんとなくクラスで人気の男の子と親しくなれたらいいな、なんて軽く考えてた。
でも、佐藤くんに出会ってから、苦手だったはずの佐藤くんの存在がだんだん大きくなって。
関わりたくないって思ってたのに、いつの間にかどんどんひかれていって。
気づけば、自分でもおさえきれないくらい大好きになっちゃったんだ、佐藤くんのこと。
ゴメンね、佐藤くん。
あたし、自分の気持ちから逃げてたの。
佐藤くんのこと、大好きなのに。
あたし、どうしてもホントのことが言い出せなかったひきょうな自分自身が大キライなんだ……。
家に帰って鏡を見てみると、ずいぶん走ったのと大泣きしてたせいか、髪はセットがくずれてバラバラ、スカートはよれよれ。泣きすぎて目がはれてる。
みっともないなぁ。十二時を過ぎちゃったシンデレラみたい。
どこもかしこもボロッボロ。
楽しかった魔法の時間はもうおしまい。
明日から、どんな顔して学校に行けばいいんだろう……。