アリンコと佐藤くん
3 発動! やる気モード
「お母さん、あたしにもマカロンの作りかた教えて!」
「えっ? 急にどうしたの?」
「あたしもやってみたくなったの! なんか……どうしてもチャレンジしてみたくなって」
突然やる気モードになったあたしに、お母さんはとまどいながら、
「いいけど、難しいわよ。コツをつかまないとこんなに失敗しちゃうんだから」
と、まだ依然として残っているマカロンの山を指さした。
「うん! あたし、がんばるから」
あたしは、宝さんみたいにモデルみたいなプロポーションでもないし、顔だって、ひとがあこがれるような美少女でもない。
それに、いっつも自分の気持ちに素直になれなかったダメな子だけど。
そんなあたしでも、できることがあるんだ。
成功するかどうか分からないけど、とにかくやってみよう!
それからのあたしは、もう泣いてるヒマはなくなった。
「えーと、用意するものはアーモンドパウダーとグラニュー糖……」
授業が終わるとすぐ、スーパーに出かけてマカロンの材料を買いに行く。
「で、メレンゲを泡立ててっと」
夕食が終わって、宿題とお風呂をすませると、さっそくマカロン作り。
材料を混ぜて、口金でしぼり出して、生地を乾燥させて、オーブンで焼いて……と、工程だけでもたくさんあるから、完成すると、すっかり寝る時間になってる。
「今日は、うまくいったかな……?」
ドキドキしながら食べてみると、ダメだ! やっぱりモソモソ。
歯にくっついちゃう。表面も割れてるし、また失敗しちゃった。
「いいかげんあきらめて、別のお菓子にしたら? 凛子、他のお菓子ならいくらでも作れるのに」
このところ毎晩チャレンジしては、失敗作の山を抱えてヘコんでいるあたしを見てため息をつくお母さん。
「それじゃダメなの。カンタンなお菓子じゃ、今までのあたしと変わらない気がして。もっと……なんかもっとレベルアップしたいの。新しい自分になりたいの!」
新しい自分!? お母さんは、ズルッとよろめく。
「なにそれ、意味分かんないんだけど。ま、そこまで凛子がガンコになってるんなら、やれるだけやってごらんなさい。ただし、台所はちゃんと片付けといてよね」
「うん!」
自分でも、なんでこんなにムキになってるんだろう? って思う。
だけど、お菓子作りが得意なお母さんでも難しかったマカロン。
もし、あたしがうまく作れるようになったら、少しは自信が持てる気がするの。
今度は、あたしのほうから佐藤くんに
「大好きです」
って、はっきり告白するための自信が。
「そっか。グラニュー糖じゃなくて、粉糖を使ったほうが表面が割れにくくなるんだ」
行きづまったら、お菓子の本やネットのレシピを参考にして、いろいろ試してみる。
今度はどうかな? 前よりよくなった?
毎回、期待で胸はふくらむけど。
「うーん、もうひとつ……」
残念ながら、今夜もまた失敗。
「中のガナッシュクリームは最高なんだけどね、マカロンの皮がもうちょっとサクッとなってたら、もっといいかも」
昼休みに試作品を食べてくれた芙美ちゃんは、そんな感想をもらした。
そう、あともう一歩ってところなんだけど。
もう、三月も二十日を過ぎてる。
しあさっての二十五日が終業式だから、それまでにマカロン完成させて、佐藤くんに渡したいのに。
なんとか、二十五日までに成功しないかな?
毎晩毎晩、台所じゅうにただよう甘い香りとは裏腹に、あたしの心には苦い失敗が重くのしかかるばかり。
フラフラになってベッドにたどり着くと、枕元に置いていたメルルンのぬいぐるみと、ボアボアのマスコットが目に入った。
「いけない、いけない。ここでくじけちゃダメだよね。あたし、明日もまたがんばるから!」
だから、どうかあたしのこと見守っていてね。メルルン、ボアボア!
そして、終業式を前日にひかえた二十四日の夜――。
「あぁ~、また失敗かなぁ……」
半ばあきらめモードで、できあがったマカロンを口にすると。
連日の睡眠不足でつかれ切っていた身体がシャキン! と目覚めた。
できた!
これまで毎日毎日失敗してたマカロンが、ついに、ついにうまくいった!
「やったぁーっ!」
飛び上がっちゃうほどうれしいよー!
あとはこれを佐藤くんに渡して、きちんと正直に自分の気持ちを伝えれば――。
って、待って!
また、かんじんなこと忘れてた。
佐藤くんにどうやって渡せばいいかな……?
もうゲタ箱に入れるのはトラウマになってるからイヤだし、一年C組の教室に行ってみるのは宝さんがにらんできそうでコワいし。
情けないなぁ~! あたし。
また元のおくびょうな自分に戻ってる。
ちゃんとマカロン完成させたんだから、勇気を出さなくちゃ。
あたしは、自分のスマホを手に取った。
佐藤くんのこと思い出しちゃうから、ここ数日ほとんどさわってなかったんだ。
おそるおそるLINEを開いてみると、あれから佐藤くんからの連絡は来てなかったけど、今もLINEは送れるみたい。
とっくにブロックされてるんじゃないかとあきらめてたけど、まだ望みは残ってる。
『佐藤くん、このあいだはゴメンね。明日の放課後、校庭の隅にあるクスノキのところに来てくれませんか? 待ってます』
あの大きなクスノキの付近なら、放課後はひとも少ないし、落ち着いて自分の想いを伝えられると思う。
佐藤くんが来てくれるかどうかは分からないけど、信じて待とう!
「えっ? 急にどうしたの?」
「あたしもやってみたくなったの! なんか……どうしてもチャレンジしてみたくなって」
突然やる気モードになったあたしに、お母さんはとまどいながら、
「いいけど、難しいわよ。コツをつかまないとこんなに失敗しちゃうんだから」
と、まだ依然として残っているマカロンの山を指さした。
「うん! あたし、がんばるから」
あたしは、宝さんみたいにモデルみたいなプロポーションでもないし、顔だって、ひとがあこがれるような美少女でもない。
それに、いっつも自分の気持ちに素直になれなかったダメな子だけど。
そんなあたしでも、できることがあるんだ。
成功するかどうか分からないけど、とにかくやってみよう!
それからのあたしは、もう泣いてるヒマはなくなった。
「えーと、用意するものはアーモンドパウダーとグラニュー糖……」
授業が終わるとすぐ、スーパーに出かけてマカロンの材料を買いに行く。
「で、メレンゲを泡立ててっと」
夕食が終わって、宿題とお風呂をすませると、さっそくマカロン作り。
材料を混ぜて、口金でしぼり出して、生地を乾燥させて、オーブンで焼いて……と、工程だけでもたくさんあるから、完成すると、すっかり寝る時間になってる。
「今日は、うまくいったかな……?」
ドキドキしながら食べてみると、ダメだ! やっぱりモソモソ。
歯にくっついちゃう。表面も割れてるし、また失敗しちゃった。
「いいかげんあきらめて、別のお菓子にしたら? 凛子、他のお菓子ならいくらでも作れるのに」
このところ毎晩チャレンジしては、失敗作の山を抱えてヘコんでいるあたしを見てため息をつくお母さん。
「それじゃダメなの。カンタンなお菓子じゃ、今までのあたしと変わらない気がして。もっと……なんかもっとレベルアップしたいの。新しい自分になりたいの!」
新しい自分!? お母さんは、ズルッとよろめく。
「なにそれ、意味分かんないんだけど。ま、そこまで凛子がガンコになってるんなら、やれるだけやってごらんなさい。ただし、台所はちゃんと片付けといてよね」
「うん!」
自分でも、なんでこんなにムキになってるんだろう? って思う。
だけど、お菓子作りが得意なお母さんでも難しかったマカロン。
もし、あたしがうまく作れるようになったら、少しは自信が持てる気がするの。
今度は、あたしのほうから佐藤くんに
「大好きです」
って、はっきり告白するための自信が。
「そっか。グラニュー糖じゃなくて、粉糖を使ったほうが表面が割れにくくなるんだ」
行きづまったら、お菓子の本やネットのレシピを参考にして、いろいろ試してみる。
今度はどうかな? 前よりよくなった?
毎回、期待で胸はふくらむけど。
「うーん、もうひとつ……」
残念ながら、今夜もまた失敗。
「中のガナッシュクリームは最高なんだけどね、マカロンの皮がもうちょっとサクッとなってたら、もっといいかも」
昼休みに試作品を食べてくれた芙美ちゃんは、そんな感想をもらした。
そう、あともう一歩ってところなんだけど。
もう、三月も二十日を過ぎてる。
しあさっての二十五日が終業式だから、それまでにマカロン完成させて、佐藤くんに渡したいのに。
なんとか、二十五日までに成功しないかな?
毎晩毎晩、台所じゅうにただよう甘い香りとは裏腹に、あたしの心には苦い失敗が重くのしかかるばかり。
フラフラになってベッドにたどり着くと、枕元に置いていたメルルンのぬいぐるみと、ボアボアのマスコットが目に入った。
「いけない、いけない。ここでくじけちゃダメだよね。あたし、明日もまたがんばるから!」
だから、どうかあたしのこと見守っていてね。メルルン、ボアボア!
そして、終業式を前日にひかえた二十四日の夜――。
「あぁ~、また失敗かなぁ……」
半ばあきらめモードで、できあがったマカロンを口にすると。
連日の睡眠不足でつかれ切っていた身体がシャキン! と目覚めた。
できた!
これまで毎日毎日失敗してたマカロンが、ついに、ついにうまくいった!
「やったぁーっ!」
飛び上がっちゃうほどうれしいよー!
あとはこれを佐藤くんに渡して、きちんと正直に自分の気持ちを伝えれば――。
って、待って!
また、かんじんなこと忘れてた。
佐藤くんにどうやって渡せばいいかな……?
もうゲタ箱に入れるのはトラウマになってるからイヤだし、一年C組の教室に行ってみるのは宝さんがにらんできそうでコワいし。
情けないなぁ~! あたし。
また元のおくびょうな自分に戻ってる。
ちゃんとマカロン完成させたんだから、勇気を出さなくちゃ。
あたしは、自分のスマホを手に取った。
佐藤くんのこと思い出しちゃうから、ここ数日ほとんどさわってなかったんだ。
おそるおそるLINEを開いてみると、あれから佐藤くんからの連絡は来てなかったけど、今もLINEは送れるみたい。
とっくにブロックされてるんじゃないかとあきらめてたけど、まだ望みは残ってる。
『佐藤くん、このあいだはゴメンね。明日の放課後、校庭の隅にあるクスノキのところに来てくれませんか? 待ってます』
あの大きなクスノキの付近なら、放課後はひとも少ないし、落ち着いて自分の想いを伝えられると思う。
佐藤くんが来てくれるかどうかは分からないけど、信じて待とう!