アリンコと佐藤くん
第六章 キミのことが大好き
1 夢……じゃないよね?
「……ゃん、アリちゃん」
あたしを呼ぶ声が聞こえる。
身体にじんわりと伝わってくるのは、やさしいぬくもりと風にのって運ばれてくる、甘くて、さわやかで、ほのかに苦みのあるグレープフルーツの香り。
あぁ、そうだ。思い出した、この光景。
はじめて佐藤くんと自転車ふたり乗りして帰ったあの冬の夕暮れどき。
あたし、なかば強引に自転車に乗せられて、すごいスピードでふり落とされないように必死に佐藤くんの背中にしがみついてたっけ。
あれから、こんなに佐藤くんのこと好きになるなんて思ってもみなかった。
あのときと同じように、また自転車に乗せてもらえるかな……?
「あれっ?」
あたしが目を覚ましたのは、自分の部屋のベッドの上。
どういうこと?
あたし、今日確かに佐藤くんに告白したよね?
なんでここにいるんだろう。
部屋のなかは薄暗く、どうやら今は夜みたい。
夜!?
てことは、まさか……。
冷や水をかぶったようなショックがあたしを襲う。
ひょっとして、全部夢だったの!?
実はまだ終業式の前日の真夜中で。
佐藤くんに告白したことも両想いになったことも。
それから、キ……キスされちゃったことも。
みーんなあたしの妄想だったとか?
日にちを確認しようと、パッとスマホを手に取ったら。
佐藤くんからLINEが届いてる!
ドキドキしながら内容を見てみると、写真が一枚添付されてて。
ボアボアのマスコットのとなりに、あたしのあげたマカロン。
よかったぁ! 夢じゃなかったんだ!
心臓が止まりそうになるかと思ったよ!!
写真の下にはメッセージもついている。
『アリちゃん、起きたか? 今日はどうもありがとな。おかげで、オレにとってサイコーの一日になったよ』
あたしのほうこそ、今日はすっごく幸せな一日だったよ!
佐藤くんと両想いになれたなんて、まだ信じられないもん。
『アリちゃんの作ったマカロン、オレの家族も驚いてたぞ。兄ちゃんも、さすがの腕前だね、ってアリちゃんのことほめてたし』
えへへ、なんか照れちゃうな。
でも、さすがの腕前って……?
佐藤くんのお兄さん、なんであたしがお菓子作りを好きなこと知ってるんだろう?
佐藤くんが話したのかな? もう、おしゃべりなんだから。
ホッコリした気持ちでLINEを読んでいたのもつかの間。
『にしても、やっぱりアリちゃんってすげー体重軽いな。ふだんちゃんと食ってる?』
え? なんでそこで体重の話になるの???
「えーっ!? あたしのこと学校からおぶって帰ってきたの?」
夜。佐藤くんに電話して聞かされたのは、衝撃の事実だった。
「だって、いつまでたってもアリちゃん起きねーんだもん。寝るならちゃんと家帰って寝たほうがいいと思って。送り届けたとき、アリちゃんちのお母さんにも会ったけど、お母さん若いなー。うちの母ちゃんと大ちがい」
佐藤くん、あたしのお母さんにも会ったの?
夕食のとき、お母さんがあたしのほう見てやけにニヤニヤしてたのは、そういうわけだったんだ……。
でも、今はそんなことより!
「どうしよ。おぶわれてるところ、クラスの子たちに見られてたら」
ううう……恥ずかしすぎる!!!
「ま、いいじゃん。明日から春休みだし。もし見られてたとしても、新学期にはみんな忘れてるって」
佐藤くんはサラッとそう言うけど。
「そうかなぁ……」
逆にクラスじゅうのウワサになったりしてないかな?
「不満そうだな。キスして起こしてあげたほうがよかった?」
ドキン! と心臓が飛び上がる。
「そ……そんなっ!」
今日のことを思い出して、全身が一気にかあっと赤くなる。
耳の先まで熱いくらいだよ。
あたしの動揺に気がついたのか、佐藤くんは、くっ、くっとおもしろそうに笑って。
「アリちゃん今すげー声裏返ってた。そんなにビックリした?」
「誰だって驚くよ! ドキドキしすぎて倒れるかと思っちゃった!」
すると、佐藤くんはいっそう楽しそうに、
「そんなかわいいこと言われたら、ますますアリちゃんのことドキドキさせたくなるじゃん。心配すんな、もしアリちゃんがドキドキしすぎて倒れたら、オレがまたおんぶして連れて帰ってやるから。あ、もしかしてお姫さま抱っこのほうがいい?」
なんてたずねてきた。
「そういうことじゃなくってー!」
まったく、あたしのことからかってばっかりなんだから。イジワルだなぁ。
佐藤くんはひとしきり笑ったあと、
「やっぱアリちゃんと話してると楽しいな。春休み、また会おう。新学期までアリちゃんの顔見れねーなんてサビシイからさ」
……ズルい。
そんなこと言われたら、怒れなくなっちゃったじゃない。
「うん、また遊ぼう!」
すっかり心がはずんじゃった。
今度のデートのときは、たとえ佐藤くんにウゼーなって言われてもかまわないから、一日中ずっと手をつないでいたいな……。
あたしを呼ぶ声が聞こえる。
身体にじんわりと伝わってくるのは、やさしいぬくもりと風にのって運ばれてくる、甘くて、さわやかで、ほのかに苦みのあるグレープフルーツの香り。
あぁ、そうだ。思い出した、この光景。
はじめて佐藤くんと自転車ふたり乗りして帰ったあの冬の夕暮れどき。
あたし、なかば強引に自転車に乗せられて、すごいスピードでふり落とされないように必死に佐藤くんの背中にしがみついてたっけ。
あれから、こんなに佐藤くんのこと好きになるなんて思ってもみなかった。
あのときと同じように、また自転車に乗せてもらえるかな……?
「あれっ?」
あたしが目を覚ましたのは、自分の部屋のベッドの上。
どういうこと?
あたし、今日確かに佐藤くんに告白したよね?
なんでここにいるんだろう。
部屋のなかは薄暗く、どうやら今は夜みたい。
夜!?
てことは、まさか……。
冷や水をかぶったようなショックがあたしを襲う。
ひょっとして、全部夢だったの!?
実はまだ終業式の前日の真夜中で。
佐藤くんに告白したことも両想いになったことも。
それから、キ……キスされちゃったことも。
みーんなあたしの妄想だったとか?
日にちを確認しようと、パッとスマホを手に取ったら。
佐藤くんからLINEが届いてる!
ドキドキしながら内容を見てみると、写真が一枚添付されてて。
ボアボアのマスコットのとなりに、あたしのあげたマカロン。
よかったぁ! 夢じゃなかったんだ!
心臓が止まりそうになるかと思ったよ!!
写真の下にはメッセージもついている。
『アリちゃん、起きたか? 今日はどうもありがとな。おかげで、オレにとってサイコーの一日になったよ』
あたしのほうこそ、今日はすっごく幸せな一日だったよ!
佐藤くんと両想いになれたなんて、まだ信じられないもん。
『アリちゃんの作ったマカロン、オレの家族も驚いてたぞ。兄ちゃんも、さすがの腕前だね、ってアリちゃんのことほめてたし』
えへへ、なんか照れちゃうな。
でも、さすがの腕前って……?
佐藤くんのお兄さん、なんであたしがお菓子作りを好きなこと知ってるんだろう?
佐藤くんが話したのかな? もう、おしゃべりなんだから。
ホッコリした気持ちでLINEを読んでいたのもつかの間。
『にしても、やっぱりアリちゃんってすげー体重軽いな。ふだんちゃんと食ってる?』
え? なんでそこで体重の話になるの???
「えーっ!? あたしのこと学校からおぶって帰ってきたの?」
夜。佐藤くんに電話して聞かされたのは、衝撃の事実だった。
「だって、いつまでたってもアリちゃん起きねーんだもん。寝るならちゃんと家帰って寝たほうがいいと思って。送り届けたとき、アリちゃんちのお母さんにも会ったけど、お母さん若いなー。うちの母ちゃんと大ちがい」
佐藤くん、あたしのお母さんにも会ったの?
夕食のとき、お母さんがあたしのほう見てやけにニヤニヤしてたのは、そういうわけだったんだ……。
でも、今はそんなことより!
「どうしよ。おぶわれてるところ、クラスの子たちに見られてたら」
ううう……恥ずかしすぎる!!!
「ま、いいじゃん。明日から春休みだし。もし見られてたとしても、新学期にはみんな忘れてるって」
佐藤くんはサラッとそう言うけど。
「そうかなぁ……」
逆にクラスじゅうのウワサになったりしてないかな?
「不満そうだな。キスして起こしてあげたほうがよかった?」
ドキン! と心臓が飛び上がる。
「そ……そんなっ!」
今日のことを思い出して、全身が一気にかあっと赤くなる。
耳の先まで熱いくらいだよ。
あたしの動揺に気がついたのか、佐藤くんは、くっ、くっとおもしろそうに笑って。
「アリちゃん今すげー声裏返ってた。そんなにビックリした?」
「誰だって驚くよ! ドキドキしすぎて倒れるかと思っちゃった!」
すると、佐藤くんはいっそう楽しそうに、
「そんなかわいいこと言われたら、ますますアリちゃんのことドキドキさせたくなるじゃん。心配すんな、もしアリちゃんがドキドキしすぎて倒れたら、オレがまたおんぶして連れて帰ってやるから。あ、もしかしてお姫さま抱っこのほうがいい?」
なんてたずねてきた。
「そういうことじゃなくってー!」
まったく、あたしのことからかってばっかりなんだから。イジワルだなぁ。
佐藤くんはひとしきり笑ったあと、
「やっぱアリちゃんと話してると楽しいな。春休み、また会おう。新学期までアリちゃんの顔見れねーなんてサビシイからさ」
……ズルい。
そんなこと言われたら、怒れなくなっちゃったじゃない。
「うん、また遊ぼう!」
すっかり心がはずんじゃった。
今度のデートのときは、たとえ佐藤くんにウゼーなって言われてもかまわないから、一日中ずっと手をつないでいたいな……。