拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
……!
「まぁ。閣下ですわ! アルヌール公爵家の方ですのよ」
「公爵家の方? よくこんなところに足を運んでくれたものだ……」
……こんな所って伯父様に失礼ですわよ。
「知り合いなのか?」
「お話をしたことがあるくらいです」
「よし、挨拶に行こう」
「えぇ」
丁度伯父様が挨拶をしていらしたので、邪魔にならない距離で待機していましたの。閣下はまだ気がついておられませんわね。
「おぉ、ブリュノ今呼びに行こうとしていた所だ。閣下は三ヶ月前に王都に戻って来られたんだ。お会いするのは初めてだろう?」
お兄様が挨拶をしていた。
「そちらは、婚約者の方かな?」
閣下がようやく私を見て固まった。気が付かれましたのね?
「閣下、このような場所でお会いするのは初めてですわね」
「……あぁ。モルヴァン嬢か」
なんだか素っ気ない返事でした。先日の事、怒っていらっしゃるのかもしれませんわね。
「閣下とリュシーは知り合いだったのか?」
伯父様は意外だという顔で私を見てきます。
「何度かお話をさせていただきましたの」
「えぇ、そうです」
閣下も頷いてくれました。
「リュシーは私の姪っ子でして、本日は息子のパートナーをしてもらっているんですよ。息子には残念ながら相手がいなくて、」
「それを言うならリュシーにもいないけど」
ブリュノ兄様ったら自分のことを棚にあげたわ! むすっとした顔をして睨んでみましたわ!
「リュシーせっかくだから閣下とダンスをしてもらったらどうだい? まだブリュノとハリスとしか踊ってないだろう? 閣下宜しければ是非」
……伯父様ったら迷惑でしょう!
「閣下、ご迷惑でしたら、」
「いや。私も来たばかりですのでモルヴァン嬢さえ良ければ、ダンスを申し込みたい」
……嘘!? 閣下とダンスを?
「喜んでお受けいたしますわ」
閣下の口元が綻んだように見えました。嫌ではないのですよね?