拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
テラスに出て少し落ち着いたと思いましたら、閣下と二人きりになってしまいました。緊張してしまいますわ。テラスと言ってもオープンですし仕切りがあるわけでもありませんし閣下が無体な真似をするわけもありませんものね。外の空気に触れると顔の熱もようやく治まりました。
「その、君は私が怖くないのか? 普通は怖がって近寄らないものなんだが……」
「もしかして閣下は、犯罪者とか詐欺師かそれとも……もっと悪い方なのですか?」
「は?」
「え? 違いますの……? それでは怖いというのはどういった意味なのでしょうか?」
……また変なことを言ってしまったようです。閣下には呆れられてばかりですわね。
「……はははっ。やはりモルヴァン嬢は変わった令嬢だ。そのままの意味だ、私は自分でいうのもなんだが威圧感もあり強面で図体もデカい。だから令嬢からは恐れられているんだが、君は違うのか?」
……閣下が恐れられているなんてそれは、
「見る目がない令嬢達ですわね! 閣下は優しい方ですわ。見知らぬわたくしに傘を貸してくださって、無視しても良いのにお話をしてくださったり、何よりも閣下の瞳はとても綺麗で恐ろしいなんて事はありませんもの」
……閣下はそんなに令嬢と知り合う機会がありましたのね。でも見る目のない令嬢ばかりですわね!
「……やはり君は変わっているね」
「ふふっ。変わっているから婚約破棄されたのかもしれませんわ」
「……見る目のない男だったんだよ。君はとても可愛い」
婚約破棄をされたことを知っていらしたのね……
「……あ、ありがとうございます」
「礼を言うのは私の方だ」
それからしばらく無言でしたけれど、閣下と過ごす空気感? は嫌じゃありませんでしたの。それからブリュノ兄様に声をかけられてホッとしましたけれど、閣下には“また”と挨拶をしてお別れしました。次の約束があるって、なんだか……