拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
可愛いがすぎるではないか
~グレイソン視点~
『ふふっ。閣下の勇姿を見る日を楽しみにしていますわ』
負けられない戦いがそこにはある。コテンパンに負かしてやろうか……
『本日の閣下の装いは素敵ですね。いつもは凛々しいお姿ですが正装もお似合いですね』
挨拶をするように令嬢を褒めるんだったな……しまった! 先に言われてしまうとは!
『……モルヴァン嬢の装いも、その、華やかでグリーンが良く似合う……とても可愛い』
(グリーンのドレスが涼やかで軽やかでまるで森の妖精のようだ)言えなかったけど。
『か、可愛いですか?』
『すまない。失言だったか? 悪気はないんだ……素直に言い過ぎてしまったか。レディに可愛いは禁句なのか?』
可愛いと言ってはいけないのか? こんなに可愛いではないか! 褒め方のハウトゥー本ってあるのか? あるならそれを勧めろよ司書!
『……ふふっ。久しぶりに可愛いだなんて言われて、嬉しいですわ。可愛いという褒め言葉は妹に取られてしまっていましたし、私も妹に可愛いとよく褒めますの』
モルヴァン嬢は長女だから、可愛いことを諦めているのだろうか? 私には存在自体が可愛いとしか思えない。
『良かった。可愛いという褒め言葉はダメなのかと思った……モルヴァン嬢はいつも可愛いが今日は可愛いに磨きがかかっているな……』
私は何を言っているんだろうか? 自分の口からこんな言葉が出るとは思わなかった!
『なっ、』
『どうした? 体調でも悪いのかい』
顔が赤い……こんな無粋な褒め言葉で赤くなるとは到底思えない。褒められる事には慣れているだろうし。
『……いいえ。少し暑くなって、』
『夜風に当たるか?』
会場の熱気は凄まじい。嫡男に令嬢が詰め寄っている。後継は大変だな。
『その方がいいようですわ』
迷ったが手を差し出してみた……これくらいは普通のことだよな? 知らんけど。
オープンテラスで良かった! 二人きりだけどそうではない。すぐに会場が見える。それより……