拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
あの子は誰だ
「……グレイ、あの子はこの前の、」
レオンが凄い勢いでこちらにやって来た。
「……あぁ」
「清潔感のある綺麗な子じゃないか!」
「……あぁ」
「令嬢十人に応援されるより一人の子に応援されたい! どれだ差し入れは!」
モルヴァン嬢が持って来てくれたカゴに手をつけた。
「あ、おい、」
「皆さんでだろ!」
じろりと睨まれた。アップルパイとミートパイと言っていたか? 振り向くと隊員達がぞろぞろと集まりパイに手をつけていた。
「おいっ! こら、勝手に食うな!」
結局残ったのはアップルパイ一切れ……甘酸っぱくて美味かった。ミートパイも食べたかった!
モルヴァン嬢は今日も可憐で可愛かった。こんなにたくさん差し入れを……大変だっただろうな。何かお礼をしなくては。いや、したい。
しかし約束がない! お礼と言いつつモルヴァン伯爵家へ行く事は出来ない。彼女は週末、図書館に通っているんだったよな。よし!
「レオン、お前パイ何個食った?」
「三つかな? ミートパイすっごく美味かったぞ! あの子の家の味なのかな。家によって味が違うんだな。うちは甘め? だけどスパイシーで何個でもいけそうだった」
……食ってない!
「アップルパイもシナモンが効いてて美味かったな。たまに形が悪いのもあったけど手作りって感じがして良いな」
多分それモルヴァン嬢の……
「……レオン、次の週末休暇を取るから頼んだぞ」
肩をギュッと掴む。
「いてぇな! 何するんだよ」
にこりと笑い(笑ったつもり)
「休むからよろしくな!」
「いてぇな。分かったよ! この手加減知らずが! 新人が頑張ろうとしているのにもう少し相手してやれよ! あの子が見てたから格好つけたんだろっ! 隊長のくせに大人気がないぞ!」
……うるせぇ。それくらい良いだろうが! 負けられない戦いなんだ!
「どの道勝つんだから仕方がないだろう。お前も準決勝で負けるって副隊長のくせに情けない……」
レオンをジロリと睨んでやった。