拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
「私の信頼している部下に届けされるから、すぐに届くだろう」
「……はい」
「婚約破棄の話は以上で、次は慰謝料の提示だが、」
「え? 慰謝料ですか?」
アルバート様が、いえ、コリンズ子息が不思議そうに声をあげた。まだお父様の話途中なのに。
「先ほど契約内容について。と言ったんだが、耳が悪いのかな?」
「へ? どう言うことですか? 契約とは」
「お前には言えなかったのだが、いや。言えない事になっていた。お前に非があっての婚約破棄の場合は融資していただいている鉱山は慰謝料の代わりに渡すか、それ相当の慰謝料を支払うかのどっちかだ。モルヴァン伯爵には既に融資をしていただいたり、婚約時に支度金としてかなりの額を受け取っている……」
「聞いていませんよ!」
「お前には言わない。そういう契約だ!」
「アルバート殿は知らなくて当然。そしてうちの娘に非が有る婚約破棄に対しては、支度金と融資の返却免除。となっていて、今後数年融資は続ける。という契約だ」
知りませんでしたわよ? お母様は知っていたようで頷いていた。それは……夫人も知っているでしょうから倒れるのも納得というか……鉱山を手放すにしても惜しいでしょうし、かといって資金難であろうコリンズ伯爵家は今後のことを考えると慰謝料は支払いたくないでしょうし……
「そんなふざけた契約は無効に、」
「ならないさ。これは正式な書類の上に自分の息子がこんな愚かな行動をするなんて思っていなかった。リュシエンヌ嬢は優秀で今後お前と共に領地を盛り上げてくれると心の底から願っていた。こちらから頼み込んで婚約を結んでもらったのだから、無効になんて出来ない。コリンズ伯爵家当主として先祖に恥じる真似は出来ない。よって鉱山はモルヴァン伯爵に」
懐から書類を出し机に置きスッとお父様の目の前に出した。
「ち、父上っ!」
「そういう約束だ。うちにはお前だけでなくお前の妹たちもいる。これから結婚相手も探さなくてはいけないのに、今回の婚約破棄の件で我が家の信用は地に落ちたも同然……お前が守るべき相手は使用人ではなくリュシエンヌ嬢や家族だった。そんな事も分からないようなお前に継がせる家はない。お前が婚約破棄をしてまでも守りたかった使用人と共に出て行くが良い」
憑き物が落ちた様な顔でコリンズ伯爵が淡々と話をする。
「父上! リーディアは親戚ではないですか! それに男爵家の娘で行儀見習いに来ていたんですよ!」
「親戚でもなんでも使用人の分際で嫡男の婚約を破棄させたということはそれなりの罰が下る。男爵家にも話をつけているから今日中に籍は抜かれるだろう」
「な! 私はリーディアの為を思って、」
「行儀見習いが聞いて呆れる。あの使用人はどれだけ迷惑をかけたと思っているんだ! 親戚だと思い目を瞑っていたがそれが間違いだった。モルヴァン伯爵家の皆さん。この度は本当に申し訳ありませんでした」
伯爵様が立ち上がり腰を深く折り謝罪をしました。