拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
「お、グレイ。休日なのにわざわざ王宮へくるなんてお前らしいな!」
レオンに声をかけられた。
「まぁな。明日も休みだから久しぶりに屋敷でのんびりする」
執務室へ入り、書類に目を通し暫くしてから屋敷へと帰った。いい一日だった。
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そして週末。騎士団の稽古をモルヴァン嬢が見に来た。目が合ったので会釈すると笑顔で小さく手を振ってくれた……今ここに天使が降臨した。
レオンが言っていた通り、十人に応援されるより一人の(特別な)子に応援されれば百人力だな……
休憩になると私の元へとやってきてくれた。他の隊員は応援隊の令嬢に囲まれているが、私を囲む令嬢なんて誰一人いないから、すぐに声をかけられる……
「閣下! お疲れ様です」
「あぁ。本当に来てくれたんだな」
「はい。約束ですもの。今日はクッキーを焼いてきました。先日閣下から頂いた紅茶を使ったクッキーで、甘さを控えめに作ってみました。お口に合うとよろしいのですが」
バスケットを渡すとまたお返しになると思ったようで、箱に入っていた。
くそ。返すバスケットがないと次の約束が出来ないではないか! 早速箱を開けクッキーを一枚口に入れた。
サクサク食感で口の中で小麦の香りが感じられ、紅茶が後からふわりと追いかけてきた。
「うまいな。これなら何枚でもいけそうだ」
お世辞ではなくこれはウマイ。
「……よかった! ナッツ入りのものもありますので後でみなさ、」
「あぁ、ありがとう。後でゆっくり頂く」
皆さんと言われるとまた、食べられてしまう!
「先ほど耳に入ってきたのですが、来月また試合があるのですよね?」
騎士団の全部隊がトーナメント戦をする。
「あぁ。結構大掛かりなんだ。陛下も観に来るとか言っていたな」
「閣下は出場しないのですか?」
「私は出るなと言われた。今回は若い隊員がメインになるようで私は陛下の護衛に回る」
「来月は試験があって観に行けませんので残念ですわ」
「試験か……学生は学生で大変だ」
「最終学年ですから……論文は閣下に見せていただいた本も参考にしています。我ながら良い出来ですのよ」
最終学年の試験は一回だけ。その後は思い出作りの為に学園に行くようなものだ。
「良かったらまた一緒に読まないか……」
断られたら、もう二度とモルヴァン嬢と会わないでおこう。これ以上……
「はい、喜んで」
……少しは期待しても、いや。何を考えている十歳も歳下の令嬢に……