拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
「リュシエンヌの知り合い?」
セシリーが少し驚いて聞いてきた。えぇ。と返事をして閣下を見る。
「こんなところでお会いするなんて奇遇ですわ」
「……どうしたんだ? 気分が悪くなったのか? 顔色が悪い」
「人に酔ってしまったようで……少し座れば大丈夫だと思うのですが」
面倒な子だと思われてしまう。でもそれでいいのかも知れませんわ。そうしたらもう、会うこともなくなるもの。
「歩けるか? 無理をするな」
「……はい、大丈夫です」
「お嬢様、申し訳ありませんが馬車が渋滞して暫く足止めを……」
アデールが戻って来て閣下に頭を下げていました。
「すみませんがうちの馬車はどうでした?」
セシリーがアデールに聞いたところセシリーの家の馬車は別の場所に止まっていて動けるのだそう。
「うちの馬車で送るわ!」
「大丈夫よ、セシリーは先に帰って」
動かないのなら馬車の中で休めば大丈夫でしょう。少し休めば問題ないわ。
「夕方に近づき渋滞しているのだろう。モルヴァン嬢の友人は帰れるうちに帰った方がいい。モルヴァン嬢は私が送っていくから気にせずに帰りなさい。すまないがモルヴァン伯爵家の馬車に伝言を頼んでも良いかな?」
懐からメモを取り出してサラサラとペンを走らせセシリーに渡す閣下。
「分かりましたわ。それではリュシエンヌをよろしくお願いします」
「閣下に送ってもらうのは申し訳ないですわ……お仕事中なのではないですか? 家の馬車まで連れてくだされば、」
「君は早く休む事だな。見るからに顔色が悪い。体調が悪い時は無理をせず甘えておけば良い」
「いえ、そういう訳にはいけません」
そっと閣下から離れました。
「……騎士様はリュシエンヌの知り合いなのですよね? お願いしてもよろしいのですよね?」
「あぁ、怪しいものではない。必ず伯爵家まで送る、彼女のメイドもいるから安心して欲しい。モルヴァン嬢緊急事態だ、失礼するぞ」