拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
 上着を肩に掛けられたと思ったら急に視線が高くなり驚いてしまいました。

「きゃぁ」

「騎士団の詰所が近くに私が乗ってきた馬車がある。とにかくそこへ行くぞ。暴れると落としてしまう、大人しくしていてくれ」

「……は、恥ずかしいですわ」

 これは所謂お姫様抱っこ……あ、憧れの? 私、重たいのに……

「それなら顔を隠せば良い。顔を私の胸元に向ければ隠れる」

 閣下は早歩きであっという間に騎士団の詰め所へ到着。馬車を使うと伝え私を馬車に乗せてくれました。閣下の鼓動が耳元でダイレクトに伝わるので私の胸は早鐘を打っている……心臓に悪いわ。アデールがいてくれて良かった……

 家に到着すると閣下がまた私を抱えてくれました。心臓に悪いですわ……

「もう大丈夫ですわ、一人で歩けます……」

「良くないだろ、無理するな」

 エントランスで待っていた執事がギョッとした顔をした。

「お、お嬢様?! どうされたのですか!! おい! だれか、旦那様を呼んで来てくれ」

 いつも冷静な執事が声を荒げていましたわ……

「とにかく、お嬢様をお部屋へ! 誰かお嬢様を」

「いや、彼女は私が運ぼう。部屋の前まで案内して欲しい」

 有無を言わさぬ態度に負けて執事が案内してくれました。部屋の前に着くと降ろされて挨拶をして閣下と別れました。

 申し訳ありません。と何度も何度も言いました。


 閣下の厚い胸板、軽々と私を持ち上げる逞しい腕を思い出して顔が熱くなりました。

 


 
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