拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
閣下はリュシエンヌといると柔らかい雰囲気になるから、将来有望な閣下に自分の娘を売り込もうとしている貴族達がいるのよね。
リュシエンヌは知らないけれど、辺境の伯爵令嬢が閣下に声をかけていたのを見たの。
『閣下、お久しぶりでございます。まさか婚約されるとは……父からは私と婚約の話が出ていたと、』
『あぁ、伯爵からそんな話があったようだが、君は泣いて嫌だと言ったんじゃなかったか? 話に上がっただけの話だ、失礼する』
『え、あれは、忘れてください。今の閣下ならわたくしは、愛妾でも、』
『そんなものはいらん、二度と声をかけてくるな。次があれば伯爵家に抗議をする』
ズバッと一刀両断していたもの。それから令嬢はふん。と言って退散して私が見ていたのがバレたのよね。
『……君はリュシエンヌの友人のセシリー嬢か。変な場面を見られてしまった。リュシエンヌに余計な心配をかけたくないから、見なかった事にしてほしい』
『申し訳ございません。盗み見をするつもりはなくて』
その先にお手洗いがあるのです。とは流石にいえなかったけれど、視線の先を見て理解されたようだった。
『これは場所が悪かったようだ』
『先ほどの件はもう忘れましたわ。ご安心ください』
それだけの会話だったけれど、閣下はリュシエンヌを大切にしているって分かった。リュシエンヌのおかげで雰囲気が和らいだから、勘違いする人がいるんだわ。
急にモテだしても閣下は見向きもせずにリュシエンヌの元へ戻るのよね。
「何かの際に気持ちを伝えてみたら? きっとその時は大変な事になると思うけど?」
「大変な事?」
閣下体力ありそうだもの。言わないけどね。