拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。
「……狭いな。取りにくい」
座席の間が狭くて腕が入らない……足を使い蹴飛ばし取ることに成功したのだが……
「……これはリュシエンヌにプレゼントした耳飾りだ!」
ピンクサファイヤのティアドロップ!
「やはり来ていたんだ!」
耳飾りを手に取り、騎士団の詰め所へ走って行く。
「誰か、リュシエンヌを見たものはいないか!」
知りません。見ていません。と皆が首を振る。
「……そうか、分かった」
「グレイどうした? リュシエンヌちゃんとケンカでもしたのか? 休憩中にお前に会いにこないなんて、」
「レオン、ちょっと来てくれ」
肩を掴み執務室へと連れてきた。
「なんだ、なんだ?」
「リュシエンヌがいないんだ……今日必ず練習を見に来ると言っていた。伯爵家の馬車はあって従者が言うには、練習場に向かった。というんだがリュシエンヌの姿もメイドの姿も護衛の姿もない。何かあればリュシエンヌのことだから私に遣いを出すと思うんだ……だから……」
何かあったに違いない。騎士団の練習場で何かあったなんて考えられない……と言うことは……
「リュシエンヌの耳飾りが落ちていた。これは先日私がプレゼントした物で間違いない……ここで何かあった。となると……」
「……内部犯がいる。と言う事か?」
レオンの顔が厳しい面持ちに変わる。
「あぁ……顔見知りの犯行だと思う。しかし事を大袈裟にしたくない。誰かに攫われたなんて噂にでもなったりしたらリュシエンヌが……」
リュシエンヌを悪意ある噂から守ろうと思っていたのに、まさか自分のテリトリー内で……なんて無力なんだろうか。
(攫われたとなると貞操を疑われてしまう……)
「話は分かった。私だって仲間を信じたい。しかしお前の言う通りここで何かあったのなら、内部犯を疑わざる得ない。ちょっと気になることがあるんだが……」
「なんだ! 何か思うことがあったなら言ってくれ!」
「今日さ、休憩中にソレル嬢が来なかったんだよ。ほら、いつもなら他の令嬢を押し退けて来るだろう?」
ソレル嬢といえばレオンの悪質なストーカー令嬢だ。ソレル子爵家の令嬢……そういえばリュシエンヌから話を聞いたな!
「ソレル嬢といえば、色々と練習場でも騒ぎを起こしているよな? 勝手なルールを設けたり、気に入らない応援隊の子を出入り禁止にしたり……次に何か問題を起こしたらソレル嬢を王宮立ち入り禁止にすると警告を出した」
「応援席には居たんだよ……」
レオンが思い出そうとしている。
「いつまでいたっけな……」
「ん? 待てよ、それなら私も気になることが……いや、まさか……」