拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

『ん、んんっ……』

 意識が回復したのを(No.3)は知っていた。でも私は演技をした。もう耐えられませんもの。意識がないまま男の言いなりになんてなりたくありません。

 絶対にレイ様は異変を感じていますわ。助けに来てくれますわ。信じていますわ。


『リュシエンヌ目覚めましたか?』

 (No.3)が声をかけてきた。にこりと笑うその顔は知っていたのですわ。子爵令嬢は気が付いていないようでした。


『……ここは? 確かわたくしは練習場で……』

 声を発すると息がきれそうになりました。一体何を吹きかけられたのかしら……怖くて知りたくないような気もします。

『あぁ、体調が良くないのですね。無理はしない方が良いですね』

 いいからとっとと手を出せ! ヘタレ!! と子爵令嬢が言った。手を出す? 本当に……いや、絶対に嫌だわ。

 私はレイ様と……レイ様じゃないといやだ。さっきまでの怖さとは違う怖さが込み上げてきた。


< 203 / 223 >

この作品をシェア

pagetop